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『フィッシャー・キング』 奇才テリー・ギリアムがこれまでの技法を封印して挑んだ心温まるヒューマンドラマ

(c)Photofest / Getty Images

『フィッシャー・キング』 奇才テリー・ギリアムがこれまでの技法を封印して挑んだ心温まるヒューマンドラマ

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優れた俳優たちによって切り開かれた、ギリアムの新世界



 プロデューサーたちがギリアムに脚本を託したのには理由があった。「主演にロビン・ウィリアムズを起用したい」という強い意向があり、彼と親交のあるギリアムならばうまく話をつけてくれるのでは、と考えたのだ。そのため、ギリアムの最初の仕事は、全盛期のウィリアムズを口説き落とすことから始まったとか。


 ここをうまく押さえたなら、続いてはラジオDJ役だ。これが難問だった。どんな俳優であればウィリアムズの輝きを損なうことなく、そこにうまく相対し、引けをとらぬ存在感を放つことができるのか?


 ロビン・ウィリアムズはとてつもない俳優だ。彼がノリ出すと爆発的な力を発揮する。ただし、ひとたび間違ったほうに暴走すると作品そのものが大きく傾きかねない。繊細な題材を扱った本作ではその匙加減が極めて重要だ。センチメンタルになりすぎても、かといってバカバカしいコメディになってしまってもいけない。相手役はウィリアムズに流されないくらい重心がしっかりして、作品全体の手綱を握り締めてくれる人でなければ。


(c)Photofest / Getty Images


 ギリアムは悩んだ。候補者リストを見ながらずっと悩み続けた末、最上の答えは、LA発NY行きのフライトの中で急に降ってきた。機内上映で『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(89)を観たギリアムは、そこに主演していたジェフ・ブリッジスに惚れ込み「彼しかいない!」と確信したそうである。


 こうして二人の旅の仲間が定まった。そこにアマンダ・プラマーとマーセデス・ルールという優れた女優陣が加わり、鉄壁のカルテットが誕生した。


 4人の俳優たちは研ぎ澄まされた音色を掛け合わせながら、極上のハーモニーを生み出した。脚本に書かれてあるキャラクターを各々が演じる。それだけのことなのに、彼らが役に魂を与えると、そこに唯一無二の空気が織り成されていった。ギリアムが特殊効果や美術セット抜きで、これほど俳優たちの演技をメインに据えて映画を撮るのは初めての経験だった。


 いつもならギリアムが驚異的なカリスマ性を発揮してチームを導くのに、本作ではむしろ俳優チームが彼を導くような形で、豊富なアイディアを出し合いながら、穏やかな時間が流れていった。重要なのは、彼らの演技がうまくいっていると感じたなら、それを決して邪魔しないこと。こうしてギリアム史上、最も有機的かつヒューマンな一作が、少しずつ丁寧に、形を帯びていったのである。




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