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『フィッシャー・キング』 奇才テリー・ギリアムがこれまでの技法を封印して挑んだ心温まるヒューマンドラマ

(c)Photofest / Getty Images

『フィッシャー・キング』 奇才テリー・ギリアムがこれまでの技法を封印して挑んだ心温まるヒューマンドラマ

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『フィッシャー・キング』あらすじ

過激なトークでリスナーの支持を得ていたDJ、ジャック・ルーカスは、その放送中の言動が元で銃乱射事件を誘発してしまう。3年後、その出来事の影響でビデオショップの店員としてヒモ同然の生活していたジャックだが、ある日、「聖杯を探している」と語る錯乱状態のホームレス、パリーに出会う。最初はパリーを見下していたジャックだが、銃乱射事件が起きたあの日、パリーの妻が彼の目の前で殺されていたことを知り、パリーを救うことを決意する。


Index


我を突き通さない、新たなスタンスへの挑戦



 テリー・ギリアムと聞いて私がすぐ思い浮かべるものーーーそれは、あのモンティ・パイソンの時代から変わらぬ、目をカッと見開いて素っ頓狂におどけて見せるお決まりの表情。それからなんといっても、彼が映画監督として築き上げてきた奇想天外な世界観だ。


 ギリアムの手掛けた作品は、これまで予算超過やトラブルの連続などの負の側面ばかりが面白おかしく取り沙汰されてきた。これは逆に捉えると、彼が常に限界の壁を越えようと闘い続けてきている証でもある。一度やったことの再生産でお金儲けができるならこんなに楽なことはない。しかし彼のアーティストとしての矜持がそれを許さない。巨大な風車を見つけては無謀な突進を繰り返す。そんなドン・キホーテの如き姿こそ、我々の最もよく知るテリー・ギリアムの生き様だ。


 その一方、2021年で公開30周年を迎える『フィッシャー・キング』(91)は、ギリアムのキャリア史上、非常に特殊なタイミングで生まれた、異色作とも言える。


『未来世紀ブラジル』予告


 彼は、80年代後半に『未来世紀ブラジル』(85)や『バロン』(88)でプロデューサーやスタジオと揉めに揉めた。いわば、出資者の立場からは「ギリアム=トラブルメーカー」と烙印を押されていたと言っていい。そんな彼もさすがにこの時期、トラブル続きの人生が嫌になったようで、これまでとは違う映画づくりに挑戦しようと考えた。すなわち、自分の映画監督としての”我”を押し通すのではなく、むしろ何かのために自分の身を捧げる。『フィッシャー・キング』は、ギリアムの精神状態にそういう”穏やかな風”が吹いていた時代に作られた映画なのである。




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