リスクを冒してまでこだわった火星の“赤”
事実、バーホーベン監督が語るように、高画質化が本作にもたらした成果は大きい。特に今回、作品の舞台となる火星の色調を赤で統一したことで、古いプリントやビデオマスターではつぶれぎみだった岩肌やコロニーのディテール表現が、見事なまでに改善されている。
撮影監督を務めたヨスト・ヴァカーノによると、この火星の赤を出すために入念なカメラテストを重ね、ロスコ社の照明用カラーゼラチンフィルターを用いる撮影に行き当たったという。しかしいざ大量購入の段階において、同色のゼラチンフィルターはすでに製造中止となっていたのだ。そこでわざわざロスコ社に掛け合い、映画のために再生産してもらったという。それだけ妥協を許さぬ色へのこだわりが本作にはあったのだ。
『トータル・リコール 4Kデジタル・リマスター』(c)STUDIOCANAL
加えてHDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)における広範囲な色域の拡大によって、作品からは色だけでなく奥行きまでもが感じられるようになり、元となるフィルムメディアのポテンシャルを示したものとなっている。監督が「ビデオ化のことなど考えるな!」と言ってまでこだわった撮像が、ここでは心ゆくまで存分に堪能できる。