改めて実感させられる、造形物の精巧さ
他にも『トータル・リコール』ではメイクアップ・エフェクト・デザイナーのロブ・ボッティンが視覚効果の中心的な役割を果たし、素晴らしい造形物の数々を生み出している。
特殊メイクのカテゴリーにおけるボッティンの偉業は、こちらの『遊星からの物体X』(82)に触れた記事に詳しいので、改めて読んでいただけると幸いだ。そんな彼はバーホーベン監督から『ロボコップ』での実績を買われ、『トータル・リコール』に参加したとされているが、以前に映画化権を持っていたディノ・デ・ラウレンティスからも同作への参加を打診されていた。脚本を読んだボッティンも「それは完全に想像力に富んだ、不思議なスクリプトだった」と興味を示したものの、プロジェクトがたびたび暗礁に乗り上げ、『物体X』への参加を優先させた経緯がある。
ボッティンと彼のスタッフは、この作品においてロボット運転手のジョニーキャブに、レジスタンスのリーダーであるクワトー(人間の体内に宿った変異体)など大がかりなメカニカルギミックを伴うキャラクターや、コロニーで生活しているミュータントなどの、特殊メイクを駆使したキャラクターを量産している。
『トータル・リコール 4Kデジタル・リマスター』(c)STUDIOCANAL
またミュータントだけでなく、実際の俳優たちもショットに応じてパペットヘッドが作られた。特にクエイドが鼻の穴から探知機を引き抜くシーンや、税関を通過するために大柄の女性に変装していた彼が姿をあらわすシーンでは、シュワルツェネッガーの精巧なパペットヘッドが作られ、効果的なショットをものにしている。
そのパペッドヘッドがどれだけリアルに再現されていたかを物語るエピソードがある。撮影ステージにこっそり忍び込んだ二人のティーンエイジャーが、ボッティンのパペット操作をずっと見ており、プロダクションマネージャーから退場を命じられると「そこにいるアーノルドに会えるよう残らせてくれ」と懇願したという。つまり彼らは、ずっとそれが本物のシュワルツェネッガーだと思っていたのだ。
そんな渾身のシーンも、4Kレストアによって造形物の素材感さえもがあらわとなり、撮影現場で驚いたティーンエイジャーたちのように実物と見紛うことはさすがにないだろう。なにより特殊効果の仕組みが素材レベルで可視化されるのに対し「興醒めだ」という声もあるかもしれない。
しかし、こうした先人たちの創意工夫も、今ではCGIにとって代わられ、完成度は高いものの、作り手の痕跡が見えづらいものになっている。だが今回の高画質化が、かえってアナログ特撮としてのレベルの高さを実感させ、誰もがそこに造形物としてのハイクオリティぶりと、プラクティカルな効果の威力を改めて感じとることができるだろう。
『トータル・リコール』は1990年の第63回米アカデミー賞において、アカデミー特別業績賞を受賞。この年は従来の「視覚効果賞」を複数のノミネート作品で競うのではなく、対抗馬のいない事前受賞として第53回の『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(80)、そして第56回の『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』(83)に次ぐ快挙をなした。それほどまでに本作の特殊効果の出来は圧倒的なものだったのだ。
参考文献・資料
■fxguide.com“Recalling Total Recall”
https://www.fxguide.com/fxfeatured/recalling-total-recall/
■Paul Roberts“EGO TRIP”Total Recall
Cinefex No.43(August, 1990)
■トータル・リコール オフィシャル・エディション(BANDAI 刊)
■Ron Magid“Many Hands Make Martian Memories in Total Recall”
American Cinematographer(July 1990)
文:尾崎一男(おざき・かずお)
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。 Twitter:@dolly_ozaki
『トータル・リコール 4Kデジタル・リマスター』
(c)STUDIOCANAL
配給:リージェンツ