“歩くカカシ”──フーテンのマックスとライオン
旅は道連れ世は情け──ふとしたことをきっかけに、交友関係を結ぶマックスとライオネル。人が恋に落ちる理由を説明できないように、友情が芽生えるのも何がきっかけとなるか分からない。マックスはライオネルを親しみを込めて“ライオン”と呼ぶようになり、彼らはピッツバーグで“洗車屋”の商売をはじめることを誓い合う。しかし、その旅路は長い。トラブルだらけのいくつもの困難を越えていかなければならないのだ。
本作が公開されたのは1973年。その頃の日本にも、定職に就かずに旅をする男がいた。そう、『男はつらいよ』シリーズ(69-19)の主人公・車寅次郎(渥美清)である。“寅さん”の愛称で親しまれるこの男もまたはみ出し者で、自らを「フーテン」と称し、ちょうどこの頃の彼は北海道や九州あたりを気ままに旅していた。“はみ出し者の旅人”という点においては、寅さんもマックスもライオンも同じだ。しかし彼らには決定的な違いがある。それは、帰る場所があるのかどうかということだ。
『男はつらいよ お帰り寅さん』予告
寅さんには、東京都葛飾区柴又に「とらや」という帰るべき場所がある。だから彼はこれといった目的も持たず、ふらふらとフーテン生活に身を投じることができた。「とらや」があるかぎり、寅さんは気ままな生活を続けられる。しかしマックスとライオンには、その帰るべき場所というものがない。いつまでも旅の空をさまよっているわけにはいかない。だからこそ彼らには、“ピッツバーグで洗車屋を開業する”という目的が必要だったのだ。
柔軟なライオンと違い、マックスは“ピッツバーグで洗車屋を開業する”ということに頑ななまでの姿勢をみせる。これは目的を失うということが、同時に彼らの“居場所”を失うことを示しているのだと思う。旅の途上にあり、まだ居場所を持っていない彼らにとって、それは“心の拠り所”といえるものなのだろう。
寅さんといえば人情深い男なものの、少々ケンカっ早い一面があり、かと思えばひょうきんな一面が顔を出すこともある。これが寅さんという男の性質であり、もし彼にこのどちらかしかなければ旅を続けることはできなかっただろう。
一方、マックスとライオンのコンビのでこぼこ具合いは、その見た目だけではない。マックスの特徴は“ケンカっ早さ”であり、ライオンの特徴は“ひょうきんさ”だ。彼らのどちらかが欠けてしまえば、ときに小さなトラブルが大事へと発展してしまう。ひるがえって考えてみれば、旅の友として彼らが行動を共にするのは必然なのだ。彼らふたりは一緒でなければ旅はできない。どちらも欠けてはならぬ、互いにかけがえのない存在なのである。すでに彼らはお互いが、自身の“居場所(帰る場所)”となっているのだ。