2021.01.31
オタクでサエないチビが敏腕スパイでもいいじゃないか!
マイク・マイヤーズのオタク志向は、ある意味、ファッションや音楽のような映画の装飾の部分よりも大事かもしれない。映画を見ればわかるが、オースティンは背が低い。前歯が出ている。眼鏡をかけている。決してイケメンと呼ばれるような容姿ではない。
マイヤーズは身長170センチ。身長173センチのヒロイン、エリザベス・ハーレイと並んでも、明らかに低い。ぶっちゃけ、スパイ映画の主役を張るタイプではないのだが、マイヤーズはオタク趣味をまぶしながら、オースティンをモテモテで、共感の抱けるヒーローとして描いた。一般の人間が抱くコンプレックスを理解していたからこその絶妙の解釈。だからこそ、おバカなオースティンに観客は共感したのではないだろうか。
『オースティン・パワーズ:ゴールドメンバー』予告
『オースティン・パワーズ』は全米でのヒットを受けてシリーズ化され、第二作『オースティン・パワーズ:デラックス』(99)、第3作『オースティン・パワーズ:ゴールドメンバー』(02)が製作された。日本では一作目こそ単館公開だったが、人気を受けて2作目以降は拡大ロードショーされ、右肩上がりの興行収入を記録。3作目ではついに10億円突破の大ヒットを飛ばした。これはハリウッド製のコメディでは珍しい現象だ。
世界的なパンデミックが収まらない現在、本家『007』シリーズ最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開は延期され続け、公開日のリスケジュールが続いている。ステイホームの空気により、人の気持ちも内にこもりがち。そんな鬱屈を解消するうえで、気取りや知性から解放され、賑やかで、さりげなくポジティブな『オースティン・パワーズ』は必要なのではないか……などと思う今日この頃である。
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
(c)Photofest / Getty Images