© 1999 Village Roadshow Films (BVI) Limited.
『スリー・キングス』 撮影現場の混乱を、生々しくスリリングな臨場感へと昇華させた異色の戦争アクション
混沌や混乱を抱えながらも、なぜか記憶に残る名作に
おそらくラッセルとクルーニー、双方に言い分はあったはず。だが、少なくとも今現在の映画づくりの常識で照らしたなら、いくら経験が浅かったとは言え、当時のラッセルの監督ぶりはアウトと言えそうである。
ただ、そのような監督と主演俳優との緊張状態を知った上で、いま改めて『スリー・キングス』を見直すと、幾多のトラブルがなぜか魔法のように唯一無二の持ち味へ昇華されていることにハッとさせられる。
例えば、撮影現場の目も当てられないほどの混乱は、そのまま停戦直後のイラクの状況へと絶妙に置き換わり、まさに「狂騒」という言葉にふさわしい独特の臨場感を生み出している。
さらに、軍の指揮官に逆らってまで自らの信念を貫こうとする主人公の姿には、現場でラッセルと泥臭くやりあったクルーニーの行動が重なって見えてくるではないか。転んでもただでは起きないとよく言われるが、狙って撮ったとは到底思えないこのリアリティが、混沌を切り裂くパワフルなエネルギーとなって、我々の胸を揺さぶってやまないのだ。
『スリー・キングス』© 1999 Village Roadshow Films (BVI) Limited.
当時のラッセルの仕事ぶりを擁護するわけでは決してないが、ひとつ間違えればとっくに空中崩壊していたかもしれない本作の製作過程では、映画の神様が我慢強く微笑み、いつになく余計に奇跡を授けてくれたように思えてならない。
結局、本作の高評価を踏み台の一つとして、その後のジョージ・クルーニーは目覚ましい勢いでハリウッドを代表する映画俳優へと駆け上っていったし、今では社会派な題材を扱う映画監督、プロデューサーとしてもお馴染みだ。
一方、ラッセル監督は、00年代こそ監督作が少なかったものの、2010年代に入ってもう一度、大きな波を迎えた。とりわけ『ザ・ファイター』(10)、『世界にひとつのプレイブック』(12)、『アメリカン・ハッスル』(13)はどれも、しっちゃかめっちゃかな狂騒の向こう側に清々しい結末が待つ、従来の”ラッセル節”をさらにパワフルに鍛え上げた仕上がりだ。
ただし、いずれも大作ではないし、むしろ即興性に富み、小回りの効く製作規模のものばかり。おそらく彼は彼なりに『スリー・キングス』での失敗を糧に、経験値を上げたのだろう。自分の長所と短所を見極め、自らの特異な作家性を活かすにあたっての”ちょうど良いサイズ”を見つけ出した。その延長線上に、名匠と呼ばれる今があるのは間違いなさそうである。
参考記事
https://nymag.com/nymetro/movies/features/1267/#print
https://ew.com/article/1999/10/01/george-clooney-fought-star-three-kings/
https://slate.com/culture/2019/04/three-kings-movie-desert-storm-gulf-war.html
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『スリー・キングス』
ブルーレイ ¥2,619(税込)/DVD特別版 ¥1,572(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
© 1999 Village Roadshow Films (BVI) Limited.