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『オーシャンズ11』インディーズの鬼才スティーヴン・ソダーバーグとハリウッドの大物が生んだオールスター映画
『オーシャンズ11』あらすじ
ダニー・オーシャンは、腕利きだがクセのある仲間たちを率い、3つのカジノを同時に襲撃するという途方もない計画を実行に移す。標的はカジノのオーナーであり、ダニーの元妻(ジュリア・ロバーツ)と付き合っているベネディクト(アンディ・ガルシア)。ラスティー(ブラッド・ピット)、ライナス(マット・デイモン)、フランク(バーニー・マック)、ソール(カール・ライナー)他、役者は揃った。のるかそるか、史上最大の作戦が始まる。
Index
- ソダーバーグと仲間たちのまったく新しい挑戦
- 難航した“オールスター”キャスティング
- 最大のライバルは『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』だった!?
- 映画業界の慣習を超えて、クルーニーがギャラ値下げ交渉
- “ラスベガスの法王”ジェリー・ワイントローブ
- インディペンデントの鬼才とハリウッドシステムの親玉の協力体制
ソダーバーグと仲間たちのまったく新しい挑戦
『オーシャンズ11』は陽気なお祭りであり、大きなリスクを伴う挑戦でもあった。誰にとって? 監督のスティーヴン・ソダーバーグにとってであることはもちろん、ハリウッドスターたちが集まって、これまでの慣例を破ってハリウッドに一石を投じる試みでもあったのだ。
簡単におさらいしておくと、『オーシャンズ11』は2001年に発表されたクライムコメディで、オールスターキャストの豪華共演が最大の売りだった。元ネタは“ラット・パック”と呼ばれたフランク・シナトラ一家が総出演した1960年作品『オーシャンと十一人の仲間』。オリジナルに負けず劣らぬトップスターの顔ぶれを挙げると、カジノ強奪作戦のリーダー、ダニー・オーシャン役にジョージ・クルーニー。相棒ラスティにブラッド・ピット。ダニーの元妻テスにジュリア・ロバーツ。チームの新顔となるスリの達人にマット・デイモンなどなど。
『オーシャンズ11』予告
この中の二人が出演しただけでも豪華共演と言われることは間違いないのに、アンディ・ガルシア、エリオット・グールド、ドン・チードル、ケイシー・アフレックら新旧の主演クラスが惜しげもなく参加している。
『オーシャンズ11』の製作に入る頃のソダーバーグは、まさにキャリアの上り坂にいた。デビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』(89)をカンヌ映画祭に出品し、史上最年少でパルムドールを受賞した若き天才は、その後長い低迷期にいた。しかし初めてメジャースタジオのオファーを請けた『アウト・オブ・サイト』(98)が高く評価され、実話ベースのヒューマンコメディ『エリン・ブロコビッチ』(00)と、終わりの見えない麻薬戦争を俯瞰で描いた群像劇『トラフィック』(00)も絶賛を浴び、『トラフィック』では監督だけでなく撮影監督(ピーター・アンドリュースという偽名名義)としても実力を発揮した。
そんな流れの中でメジャーな大作映画のオファーがやってくるのも無理はない。ただしソダーバーグが『エリン・ブロコビッチ』と『トラフィック』の2本でアカデミー賞監督賞に同時ノミネートされた(『トラフィック』で受賞)流れとは関連はない。というのも、ソダーバーグは『オーシャンズ11』撮影中の2001年2月にアカデミー賞ノミネートの報を受け取っているからだ。
『オーシャンズ11』(c)2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
ソダーバーグはコンセプトを重視するタイプの監督だが、さすがにこれほどのメジャーなエンタメ作品を撮るのは大変だったらしい。ソダーバーグとしては「最初から最後まで、肩ひじ張らずに楽しめる娯楽映画」を目指したという。撮影監督を務めた前作『トラフィック』は、粗い手持ちカメラの映像に極端なカラーリングを施すことで成立させた、コロンブスの卵的アプローチが功を奏していた。しかし今回は、職人的な意味でもちゃんと「王道の娯楽映画」に見えるように撮影することが、至上課題のひとつだった。
実際には『アウト・オブ・サイト』で試みたストップモーションを取り入れるなどさまざまな挑戦をしているのだが、同時にクラシカルな往年のハリウッド映画の雰囲気を漂わせることに成功している。もっとも一時は、ソダーバーグは真剣に白黒で撮ろうとしていたので、どこまで「王道」のつもりだったかは定かではない。白黒の件については「カラーじゃないなら製作費を大幅に減らす」とスタジオ側に言われて断念している。