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『オーシャンズ11』インディーズの鬼才スティーヴン・ソダーバーグとハリウッドの大物が生んだオールスター映画
インディペンデントの鬼才とハリウッドシステムの親玉の協力体制
ジェリー・ワイントローブという人物は、芸能エージェンシーMCAのメールボーイとして音楽業界に入り、わずか三週間後には契約タレントのエージェントになり、ほどなくして自らのマネージメント会社を立ち上げた立身出世伝上の人物。
MCAではハリウッドのスターシステムを作り上げた伝説的顔役ルー・ワッサーマンの薫陶を受け、音楽業界での成功を足がかりに映画業界に進出した。そのきっかけとなったのは、マネージメントを担当していた歌手ジョン・デンバーのために開いたパーティーで、初対面のロバート・アルトマンから『ナッシュビル』(75)の企画を売り込まれ、その場でプロデュースを引き受けると即決したことだった。当時のアルトマンは映画スタジオからリスキーな要注意人物と目されていたが、完成した『ナッシュビル』は絶賛を浴び、全米映画批評家協会賞の作品賞を始め数々の映画賞に輝いている。ワイントローブは天性の嗅覚の持ち主なのかも知れない。
『ナッシュビル』予告
音楽プロモーターとしてはエルビス・プレスリーと『オーシャンと11人の仲間』の主演スターでもあるフランク・シナトラの大規模なツアーを手がけており、ラスベガスに顔が利くのも当然だと言える。ワイントローブがマネージメントした、ニール・ダイヤモンドのラスベガスでのコンサートを観たボブ・ディランが、感銘を受けてワイントローブと世界ツアーの契約を交わしたこともある。
一方でロナルド・レーガンとジョージ・H・W・ブッシュら政治家とも親しく友人で、政治活動にも深く関わり、またチャリティ活動にも積極的に取り組んだ。つまりワイントローブとは、アメリカンドリームを体現する成功者であり、政財界とエンタメ業界に強い影響力を持ったエスタブリッシュメントの代表だったのである。
面白いのは、創作上の束縛を嫌い、インディペンデントの精神でもって王道エンタメを作り上げようとしていたソダーバーグが、典型的なハリウッドシステム側の大物であるワイントローブと組んだことで、『オーシャンズ11』を実現と成功に導いたということ。
ソダーバーグのキャリアは一貫して既存のシステムや慣例へのアンチテーゼの提示だと思っているが、そんなソダーバーグの才能を認め全力でサポートしたワイントローブにも、長いものに巻かれることなく大物の懐に飛び込んだソダーバーグにも、器の大きさと同時に、魑魅魍魎が蠢くエンタメ業界を渡り歩く巧者ならではの、したたかさを感じずにいられないのだ。
文: 村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
『オーシャンズ11』
ブルーレイ ¥2,381+税/DVD特別版 ¥1,429 +税
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