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『アウト・オブ・サイト』スティーヴン・ソダーバーグのキャリアを救った、エルモア・レナード原作の犯罪コメディ
2019.09.02
『アウト・オブ・サイト』あらすじ
武器を使わず如才なく数百の銀行を襲った全米屈指の銀行強盗ジャック・フォーリー(ジョージ・クルーニー)は刑務所から脱獄をした。その日にジャックはお金よりも貴重なもの・・・カレン・シスコ(ジェニファー・ロペス)のハートを盗んだ。しかし不運なことに、彼女は美人でセクシーなだけでなく、頭の切れる連邦捜査官であったのだ。正反対の世界で生きるジャックとカレン。2人はお互いの身を危険にさらしながらも、惹かれ合う気持ちを確かめようとするが・・・。
Index
- 映画人に愛される要注意作家=エルモア・レナード
- 排水の陣で挑んだソダーバーグの“エンタメはじめました”
- 実験精神を忘れることなくオシャレなエンタメを実現
- 『アウト・オブ・サイト』が映画業界に残したもの
映画人に愛される要注意作家=エルモア・レナード
『アウト・オブ・サイト』(98)はスティーヴン・ソダーバーグのキャリアを救った。ソダーバーグといえば史上最年少でカンヌ国際映画祭のパルムドールに輝き、商業映画と実験的挑戦の間を自由に行き来する名監督だが、『アウト・オブ・サイト』のオファーが飛び込んでくるまで、文字通りキャリアのドン底にいたのだ。落ちぶれた“若き天才”は、いかにして犯罪コメディの傑作をものにしたのか? ソダーバーグ本人も「こんなことが自分にできるとは思わなかった」と語る《奇跡の大逆転》の話をしたい。
しかし『アウト・オブ・サイト』を語るには、まず原作者のエルモア・レナードについて説明すべきだろう。
『アウト・オブ・サイト』は、銃を持たないことが自慢の銀行強盗ジャック・フォーリー(ジョージ・クルーニー)と、連邦捜査官のカレン・シスコ(ジェニファー・ロペス)が、追いつ追われつの立場でありながら惹かれ合ってしまう物語だ。そこにクセの強い小悪党たちの思惑が絡み合い、ある実業家の隠し財産の強奪計画になだれ込んでいく。この「緩やかに絡み合う小悪党どもの群像劇」というスタイルこそ、原作者エルモア・レナードの十八番なのである。
『アウト・オブ・サイト』予告
ソダーバーグは『アウト・オブ・サイト』の脚本を読んで寄り道だらけのプロットに惹かれたそうだが、同じくレナードが書く独特の世界観に魅了された映画人は多い。その筆頭に挙がるのがクエンティン・タランティーノで、レナードの熱狂的ファンを公言し、レナードの犯罪小説からの多大な影響を受けた『パルプ・フィクション』(94)の後に、満を持してレナードの長編小説「ラム・パンチ」を『ジャッキー・ブラウン』(97)として映画化している。
しかしプロットに「寄り道」が多く、緊張とユーモアが交互に繰り出されるレナード作品の映像化は、失敗する確率が非常に高い。寄り道をそのままトレースしようとすれば冗長に見えてしまい、ユーモアとシリアスの振れ幅が大きいのでバランスが取りづらい。予測不可能というと聞こえはいいが、王道の構成では収まらないのでクライマックスを盛り上げづらい。ここで失敗作の名前を挙げてあげつらうことはやめておくが、レナード作品の映画化は、手を出すと大火傷をしかねない取扱注意物件なのだ。