Fim (C) 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.
『アウト・オブ・サイト』スティーヴン・ソダーバーグのキャリアを救った、エルモア・レナード原作の犯罪コメディ
2019.09.02
実験精神を忘れることなくオシャレなエンタメを実現
ついに腹をくくったソダーバーグは、初めてのメジャースタジオ映画を撮るに当たって、これまでの作品に注ぎ込んできた実験精神を捨てた。。いや、大嘘です、ごめんなさい。ソダーバーグはあくまでも、映画の可能性を探究しようという、かねてからの野望とシネフィル的な趣味性を、メジャー映画の枠内に惜しみなく注入することにしたのである!
例えば本作では、ときおり映像が止め絵になる。シーンを転換させたりアクセントを付けるための効果なのだが、ソダーバーグは敢えて精査することをやめて、ランダムに静止画にするフレームを決めた。ソダーバーグはある種のコントロールフリークだと思っているが、彼の凄みは、この“適当さ”さえも作品をコントロールするための駒として使ってしまうところにある。緻密と緩和、計画性と偶発性のバランスを即座に判断する卓越したスキルは、ソダーバーグの演出術の神髄と言っていい。
『アウト・オブ・サイト』Fim (C) 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.
過去と現代が入り乱れるややこしい構成は、刑務所ごとに囚人服の色を変えるという超単純な方法で処理した。前述の止め絵や時系列が交錯する編集で独特のテンポを作り出し、DJ出身のデヴィッド・ホームズの軽快なビートとアイズレー・ブラザーズらの懐メロと組み合わせることで、映画全体をスタイリッシュにまとめ上げた。奇抜なチャレンジの数々をお洒落に見せてしまう力量は、続く『イギリスから来た男』(99)と並んでヌーヴェルヴァーグ的と言えるかも知れない。
とはいえ実験が過ぎて失敗もした。脱獄したジャックがカレンを人質にして一緒に車のトランクに入るシーンがある。狭いトランクの暗がりで交わした二人の会話が後の展開を左右するのだが、ソダーバーグは「実際には真っ暗なのだから画面は真っ暗にしよう」と考えたのだ。ところがテスト試写を行うと、画面に何も映らずセリフだけを延々と聞かされるワンシーンは大不評。ソダーバーグは素直に過ちを認めて二人の顔が見えるように再撮影を行っている。