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『パーフェクト・ワールド』ケヴィン・コスナーとクリント・イーストウッド、師弟関係を構築できなかったふたりの確執

© 1993 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『パーフェクト・ワールド』ケヴィン・コスナーとクリント・イーストウッド、師弟関係を構築できなかったふたりの確執

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監督経験のあるコスナーとイーストウッドとの確執



 ふたりの確執は、すぐさまハリウッド内で噂となり、当然、マスコミが嗅ぎつけることとなる。事態を収拾するため、イーストウッドはあえてインタビューの場を設け、記者たちへこう語っている。「彼も映画界で実績を作ってきた男だから、勿論それなりに意見は聞く。しかし、私は23年の間、監督をしてきたんだ。だから、私には私のやり方がある。例えば、美しい夕陽があったら、すぐに出掛けて撮影する。それをどうやって撮ろうかと議論していると、準備ができた頃には夕陽は沈んでいるからね」。


 いっけんするとコスナーを批判する言葉にも聞こえるが、イーストウッドはこうも語っている。「自分自身も若い頃は、撮影中の映画を膨らませようといろんな提案をした。それを監督が聞いてくれることは嬉しかったからね。自分も若い世代には同じようにしたいと思うんだ」と。イーストウッドは、コスナーに若き日の自分自身を重ねていたのだろう。そもそもイーストウッドが監督することを熱望し、オファーを打診したのはコスナーの方だった。当時、不仲説が伝えられていたが、実際のところは作品をより良くするため、こだわりを捨てられない者同士が現場でぶつかり合いながらも切磋琢磨していたということではないだろうか。確かに衝突はあったのだろう。しかしコスナーが脚本の手直しを手伝ったことで、彼が演じたブッチのキャラクターに深みが増したと評されているのも事実なのだ。


『パーフェクト・ワールド』© 1993 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 言わずもがな、クリント・イーストウッドは『ダーティハリー』シリーズのハリー・キャラハン刑事役をはじめ、多くの作品で犯罪者を“追う側”を演じてきた。『パーフェクト・ワールド』ではテキサス州警察署長のレッドを演じているが、あくまでも主役は“追われる側”のケヴィン・コスナーへ譲っている。当時『フィールド・オブ・ドリームス』(89)などで“アメリカの良心”を体現する俳優だったコスナーにとって、犯罪者を演じることにはリスクがあった。一方で、“アメリカの良心”とは相反する粗野なイメージをコスナー自身が求めていたことは、初めて製作総指揮を手掛けた主演作に、恩人の妻との不倫に始まる復讐劇を描いた『リベンジ』(90)を選んだことにも現れている。


 このことについてケヴィン・コスナーは「役者としての幅ができたことで、悪者の役を演じても良い段階に来たと感じた」と述懐している。とはいえ、それまでの健全なイメージを排し、タフで粗野な役に挑戦するのは勇気のいることだったのだ。『パーフェクト・ワールド』で(これが映画初出演だった)T・J・ローサーが演じた少年フィリップは、8歳という設定。逆算すると、彼は1955年生まれという設定になる。そう、コスナーも同じ1955年生まれなのだ。つまり、フィリップはコスナーと同い年だということになる。フィリップと同時代を生きたコスナーは、自身の演じたブッチの方ではなく、フィリップの方へ自らの姿を投影させていたのである。


 この脚本を手掛けたジョン・リー・ハンコックは、クリント・イーストウッドが監督した『真夜中のサバナ』(97)でも脚本を担当している。その後、映画監督に転身したハンコックは、『オールド・ルーキー』(02)や『しあわせの隠れ場所』(09)など、実話を基にした作品を監督。Netflixで製作した『ザ・テキサス・レンジャーズ』(19)でも実話を基に、『俺たちに明日はない』の主人公であるボニーとクライドのふたりを“追う側”の視点で描いている。そして、この映画で彼らを“追う側”の法執行官役を演じているのが、ケヴィン・コスナーなのだった。



【出典】

・「秘められた野心 ケヴィン・コスナー物語」(シンコーミュージック)  ケルバン・キャディース著 小尾ちさほ・訳

・「クリント・イーストウッド ハリウッド最後の伝説」マーク・エリオット著 笹森みわこ・早川麻百合・訳(早川書房)

・「パーフェクト・ワールド」劇場パンフレット



文: 松崎健夫

映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。



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『パーフェクト・ワールド』

ブルーレイ ¥2,619(税込)/DVD ¥1,572(税込)

発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

© 1993 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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