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『狼男アメリカン』ジョン・ランディスとリック・ベイカーが手がけた、リアルで悲しきウルフマン

(c)Photofest / Getty Images

『狼男アメリカン』ジョン・ランディスとリック・ベイカーが手がけた、リアルで悲しきウルフマン

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ナチスドイツと同性愛者迫害



 デヴィッドの苗字「ケスラー」はドイツ系を意味している。モジャモジャとした眉毛に大きな鼻は、ステレオタイプなユダヤ系のルックスで、看護師が「彼、ユダヤ系よ。私、見たの。」と言うのは割礼された性器のことだ。


 そんな彼がうなされて見る悪夢は、ナチスドイツ時代のドイツ軍の軍服を着たモンスターに家族まとめて殺される、というもの。ドイツにルーツを持つユダヤ系のデヴィッドがナチスを悪夢として見るのは当然だが、もう一つの意味も立ち上がってくるかもしれない。


 ナチス党統治下のドイツでは「ゲイ」は違法とされ、ゲシュタポはゲイのリストを作成。1933年から1945年の間に約10万人の男性が「ゲイ」として逮捕され約5万人が懲役刑を言い渡され、5,000人から15,000人がホロコーストに収容され、その多くが処刑されたと言われている。デヴィッドにとって、ナチスはユダヤ系としてのみならず「ゲイ」としても恐怖の対象だったのではないだろうか?



(C) McMLXXXI AMERIcAN WEREWOLF INc. ALL RIGHTS RESERVED.


 『狼男アメリカン』が製作された1970年代末から1980年代初頭はゲイに対する理解は今よりもさらに無い。公開された1981年はアメリカで最初のHIV感染者が見つかり、その人物がゲイであったことから猛烈な同性愛者バッシングが巻き起こってしまった頃だ。そんな世の中でカミング・アウトすることは大いなる恐怖であっただろう。


 映画のオープニング。ジャックは付き合っている彼女がいかにセクシーかを自慢するが、デヴィッドは終始「身体だけで頭が悪い」などとコキ降ろし続ける。男同士のよくある下世話な話だが、デヴィッドがゲイだとすれば別の意味を帯びてくる。


 また、多くのクローゼットが反動的にゲイフォビアを装うように、劇中のデヴィッドがわざと逮捕されようとトラファルガー広場で叫ぶ言葉は「エリザベス女王は男だ! チャールズ皇太子はオカマだ!」である。


 映画のラスト。ロンドンを恐怖の坩堝に叩き込み、ついに警官隊に囲まれた狼男デヴィッドにアレックスが歩み寄る。「私にあなたを助けさせて。あなたを愛している。」そう言うアレックスを前に、デヴィッドは怒りの表情を緩める。


 この場面はアレックスの無理解に「諦め」の表情を浮かべたとも見れる。つまりアレックスは、かつて愛し合った女性として、デヴィッドを「助ける=ゲイであることを辞めさせられる」と告白し、その無理解にデヴィッドは全てを諦め、牙を剥いて立ち上がり、警官たちの銃弾に倒れる。そう読み取れば、撃ち殺されたデヴィッドの姿に、史上最古のゲイ・アイコンとも呼ばれる聖セバスティアヌスの殉教画との共通点も見えてくるのではないだろうか。


 この作品に感銘を受け、ジョン・ランディスに監督を、リック・ベイカーにメイクアップ依頼をしたのがマイケル・ジャクソンで、出来たのが「スリラー」MVというのは、あまりに示唆的ではないだろうか。


 ただ、彼の場合は猛烈な「変身願望」を満たそうとした。という方がすんなり腑に落ちるが。



文:侍功夫

本業デザイナー、兼業映画ライター。日本でのインド映画高揚に尽力中。



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『狼男アメリカン』

DVD: 1,429 円+税

発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント

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