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甘美なカオスに絡め取られる快楽。『複製された男』の謎世界を読み解く

甘美なカオスに絡め取られる快楽。『複製された男』の謎世界を読み解く


蜘蛛がはらむ象徴



 先述のように、映画『複製された男』には蜘蛛のイメージが繰り返し登場する。作り手が蜘蛛に投影した象徴は、主に2つ挙げられよう。


 分かりやすい手がかりになっているのが、トロントの高層ビル群よりも長い脚の超巨大蜘蛛が悠然と歩くショット。この蜘蛛の造形に既視感を覚えた人も多いだろう。これはフランス出身の彫刻家ルイーズ・ブルジョワの巨大な蜘蛛の彫像シリーズ「ママン」にオマージュを捧げたもので、この像の一体が東京の六本木ヒルズにも展示されている。「ママン」の像の腹部には大理石でできた卵が複数収められている。蜘蛛が「母性」を象徴しているのは明らかで、ヘレンの膨らんだお腹ともイメージが重なる。


 もう1つの象徴は、蜘蛛の網から連想される「支配、コントロール」のイメージだ。映画の中では蜘蛛の糸や網を直接描く代わりに、街路の上に張り巡らされた路面電車用の電線網や、事故車の窓ガラスに広がった蜘蛛の網状のヒビで暗示している。


 以上を踏まえて、『複製された男』の解釈を検討していこう。


解釈1:抑圧された男の内面を象徴的に表現



 画面に映ることは、かならずしも作品世界の中で実際に起きた出来事とは限らない。プレッシャーを感じている人物の内なる葛藤や対立を、同じ外見の「ダブル」を登場させて対話させるという表現手法は、文学でも映画でも繰り返し使われている(ちなみに原作小説では、教員の「良識」が実体化して本人と対話する場面も描かれる)。ヴィルヌーヴ監督やギレンホールのインタビューを参照しても、これが制作者の意図に沿った本命の解釈ということになるのだろう。




 もう少し具体的に書くと、教員と俳優は同一人物の二面性を表し、女性から「抑圧されている」という意識――身の振り方から食べ物まで指図する母親(イザベラ・ロッセリーニ)の存在も見逃せない――と、女性への抗しがたい性的欲求を抱えている。男は過去の浮気を清算し、妻の元へ戻ろうとするが……という物語を、実在しないダブルを用いて象徴的に表現したと解釈できる。



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