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『複製された男』の謎世界を読み解く。甘美なカオスに絡め取られる快楽。
解釈4:(本当に)複製された男
最後に、一見SF的だが、実は原作小説に即しているとも言える解釈を示そう。それは、クローン技術によってオリジナルとまったく同じコピーが作られたというものだ。
映画では省略されているが、小説では2人が初めて会ったとき、各自の出生時間を明かす場面がある。その結果、俳優は教員よりも30分早く生まれていたことを知り、「私がオリジナルであなたが複製である」と主張する。2人の会話にはまた、「クローン人間」という言葉も出てくる。
『複製された男』©2013 RHOMBUS MEDIA(ENEMY)INC./ROXBURY PICTURES S.L./9232-2437 QUEBEC INC./MECANISMO FILMS,S.L./ROXBURY ENEMY S.L. ALL RIGHTS RESERVED.
では一体誰によって、何の目的で? ここで思い出されるのが、序盤でアダムが「独裁者と支配」について講義していたことと、登場人物の営みを窓越しに監視するかのような俯瞰ショットだ。これらから想起されるのはビッグブラザー(国民を過度に監視・統制しようとする政府)のような存在であり、トロントの高層建築群よりも高くそびえ立つ巨大蜘蛛は人々を支配する組織のメタファーかもしれない。
さらには、深夜に目覚めたアダムが、バルコニーに置かれた機械の小さな光の点滅を見つめ、真っ暗な室内でアダムの目だけが光を映すシーンもある。あの機械は一体何なのか。人間の潜在意識に働きかけるような特殊な信号を発しているのではないか?
アダムの講義に沿って考えるなら、独裁者の目的は娯楽の提供と情報のコントロールによって人々を支配することであり、そのように従順な生産人口を効率よく増やす手段としてクローン技術を秘密裏に導入したのかもしれない。
映画本編だけを観ると、そんな国家規模の陰謀は飛躍しすぎと思うかもしれないが、原作は、複製されたのが教員と俳優だけではない可能性を示唆している。これ以上書くのは慎むが、気になる方はぜひサラマーゴの小説でしかと確かめていただきたい。
カオスと秩序のはざまで
今回の論考を経て、『複製された男』を改めて評価したいのは、一見まるで異なるこれら4つの解釈が――現実味の度合いは別にして――すべて成立してしまうという懐の深さだ。もちろん映画の解釈に絶対的な正解はなく、ほかにもさまざまに読み解けるだろう。カオスを混沌のまま提示するのではなく、解読して秩序に至る道筋を幾重にも用意しているからこそ、観客もまたその過程を繰り返し楽しむことができるのだ。
フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。
『複製された男』
Blu-ray 5,184円 DVD 4,104円
発売元:バップ
提供:クロックワークス、ニューセレクト
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