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ペルソナと分身。『複製された男』に至る創作の歴史を紐解く

ペルソナと分身。『複製された男』に至る創作の歴史を紐解く


『分身』から『ふたりのベロニカ』へ



 分身あるいはドッペルゲンガーを扱った創作の歴史もたどってみよう。後世の作品に影響を与えた有名な古典として、ロシアの文豪ドストエフスキーの小説『分身』(1846年)を挙げないわけにはいかない。下級官吏のゴリャートキンが、上級官吏の娘との結婚と出世の夢に破れ、自らの分身である“新ゴリャートキン”との対面と対立を経て狂気を募らせていくというストーリーだ。ロシア語原題の『Двойник』(ドゥヴォイニク)はドイツ語の「ドッペルゲンガー」と同じ意味で、英訳版では『The Double』と題された。


 ベルナルド・ベルトルッチ監督は1968年の『ベルトルッチの分身』で、ドストエフスキーの小説を換骨奪胎し、主人公が融通のきかない真面目な青年と破壊的な殺人者という二つの人格に引き裂かれていくさまを描いた。



 一方、リチャード・アイオアディ監督、ジェシー・アイゼンバーグ主演(二役)の『嗤う分身』(2013年)は、舞台を近未来的世界に置き換えながらも、ドストエフスキーの『分身』に比較的忠実な筋となっている。ちなみに、本作の原題は原作小説の英題と同じ『The Double』。従って2013年から2014年の英語圏では、ドストエフスキーの小説を映画化した『The Double』と、サラマーゴの小説『The Double』(『複製された男』の英題)を映画化した『Enemy』(映画のオリジナルタイトル)が相次いで公開されるという紛らわしい状況になっていた。分身と対面するという内容を共有し、いわば双子のように似通った2本の映画が時を同じくして世に送り出された点に、奇妙なシンクロニシティーを感じずにはいられない。


 『複製された男』との接点がうかがえるもう一本は、クシシュトフ・キェシロフスキ監督、イレーヌ・ジャコブ主演(二役)によるフランス・ポーランド合作映画『ふたりのベロニカ』(1991年)。ポーランドで生まれ育ち、ステージデビューを間近に控えた歌手のベロニカは、外出先の広場で自分そっくりの女性を目撃する。その女性は、フランスで小学校の音楽教師をしているベロニカ。たまたま観光でポーランドを訪れたのだ。同じ名前、同じ容姿、同じ才能を持つ2人のベロニカは数奇な運命をたどることになる……。歌唱を通じて(本来の内面ではない)歌詞の世界を表現する歌手も、「舞台に立つ演者」という点で役者と共通する。演者と教師という役割が、『ふたりのベロニカ』のドッペルゲンガーにも振り分けられているのだ。ストーリーにはほかにも『複製された男』との共通点があるのだが、どちらの作品にとってもネタバレになるので言及は控えよう。


 『仮面/ペルソナ』の女優と看護婦。『ふたりのベロニカ』の歌手と音楽教師。これらの卓越したキャラクターの対置が、2002年にサラマーゴが発表した『複製された男』にインスピレーションを与えたことは想像に難くない。



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