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『テルマ&ルイーズ』スーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィス、リドリー・スコットが描く“伝説”の誕生 ※注!ネタバレ含みます。
キャスティングの成功
『テルマ&ルイーズ』はスコットがカーリー・クーリのシナリオにほれ込み、映画化を望んだ時から企画がスタートしたが、当初は自身で監督する予定はなかったという。
しかし、何人かの監督と話をしてみると、自分のビジョンに合う監督がいない。そこで自身でメガホンを取ることになった。この点に関してスコットはこう振り返る。
「多くの監督たちと話をしたら、シナリオを変更したいと考えていた。しかし、私はシナリオのままで映画化したいと思っていた。監督たちは私が自分で映画化しないことを不思議がっていた。そこで自分で撮ることにした」(“Film Journal”91年6月号より)
自身で監督を決意したスコットにとって、最も骨が折れたのは、テルマとルイーズのキャスティングだ。単独での演技力だけではなく、ふたりで演技をした時の女優たちの相性の良さも考えながらキャスティングを進めていった。
人気女優たちが次々に候補となり、ジョディ・フォスター、メリル・ストリープ、ゴールディ・ホーンなどの起用も考えたという。まずは『偶然の旅行者』(88)でアカデミー賞助演女優賞を手にしていたジーナ・デイヴィスがテルマ役に決まり、次にスーザン・サランドンが選ばれた。彼女は当時のハリウッドを代表する演技派女優のひとりで、『デッドマン・ウォーキング』(95)ではアカデミー主演女優賞を獲得している。ふたりは私生活上でも親しかったそうで、その仲の良さがスクリーン上で感じられるキャスティングとなった。
スコット監督はけっして独善的なタイプの監督ではなく、俳優たちとの共同作業を大切にする。この映画でもふたりの女優たちと話し合いをしながら、それぞれの場面を作っていったが、女優たちもそんな彼のやり方に賛同し、コラボレーション的な方向で映画作りが進められた。
「その場の高揚感が大切だった。また、現場で生まれる自由な演技も生かしたいと思ったが、ふたりの女優たちはその点を理解してくれた」(“Sight and Sound”91年7月号)
主演ふたりの好演は高く評価され、その年のアカデミー主演女優賞にふたり揃ってノミネートという形で報われた。また、スコットがほれ込んだ脚本は見事にオリジナル脚本賞を受賞している。
『テルマ&ルイーズ』(c)Photofest / Getty Images
脇のキャスティングで印象に残るのは、テルマの一夜限りの恋人を演じるブラッド・ピットだろう。この作品が公開されるまで、テレビドラマなどで下積みの生活を送っていたが、スラリとした体形でセックスアピールをふりまく謎の青年、J.D.役を演じて、やっと認められる存在となった。
スコット監督のことをリスペクトしているピットは、その後、スコット監督の『悪の法則』(13)でも犯罪に巻き込まれるワケありの人物を演じる。大スターになった後も、かつての恩人のために印象に残る脇役を演じたというわけだ。
また、テルマとルイーズを追いかける刑事役を演じたハーベイ・カイテルは女性に同情的な役柄。アクの強い曲者を演じることも多い男優だったが、いつになく優しい顔が新鮮な印象を残す。
また、ルイーズの恋人を演じるマイケル・マドセンも、タフな役が多い男優だが、この作品では大人の男の優しさや純粋さを見せ、渋い好演を見せる。
圧倒的に目立つのはふたりの女優たちだが、脇役たちもそれぞれに忘れがたい印象を残す。このあたりに俳優たちを大切にし続けるスコットの力が発揮されている。