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『テルマ&ルイーズ』スーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィス、リドリー・スコットが描く“伝説”の誕生 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『テルマ&ルイーズ』スーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィス、リドリー・スコットが描く“伝説”の誕生 ※注!ネタバレ含みます。

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女性の自由と解放



 アメリカン・ニューシネマ的な作品という点に関して、スコットはこんなコメントも残している。


「(『イージー・ライダー』のような)旅の映画が作られたのは、もう30年も前で、その時はヒッピーたちが自由を求めて旅立った。しかし、時代は変わり、今は幸運なことに別のタイプの映画も作れる。ふたりの女たちが自由を求めて旅に出ることもできる」(“Film Journal”91年6月号)


 女性たちのロードムービー的な犯罪映画としては、70年代にロジャー・コーマンが製作したB級の“ママシリーズ”がすでにあった。コーマン自身が監督した『血まみれギャングママ』(70、ビデオ公開)は母と息子、スティーヴ・カーヴァー監督の『ビッグ・バッド・ママ』(74)やジョナサン・デミ監督の『クレイジー・ママ』(75、ビデオ公開)は母と娘の旅を描いていたが、メジャーな女優を使ったハリウッドの商業映画で女たちの旅を追った作品はあまりなかった(だからこそ、スコットは製作意欲をそそられたのだろう)。


 小さな町でこれといった大きな楽しみもなく、夫のために家事をこなしてきたテルマ。ウエイトレスとして地道に働いてきたルイーズ。どこにでもいそうな平凡な女性たちが変わっていくところが、見る人間にはスリリングに思える。


『テルマ&ルイーズ』(c)Photofest / Getty Images


 それまで女としての喜びを知らなかったテルマは、J.D.と出会うことで、初めて性的にも満たされる。そして、だんだん大胆な性格となり遂には強盗も……。そんな危なっかしいテルマをルイーズは見守り、テルマが危機に直面した時は思いきった行動に出る。


 その旅のせいでふたりはそれまで知らなかった自由と解放を得る。ふたりの服装も変化する。テルマはヒラヒラした白いドレス、ルイーズは刺しゅう入りの白のブラウス姿で旅に出るが、途中からはラフなTシャツとジーンズと銃が似合うかっこいい女に変わる。


 劇中に登場する曲で特に印象的なのはマリアンヌ・フェイスフルが歌う「ルーシー・ジョーダンのバラード」だろう。夫も子供もいる37歳の主婦の揺れ動く気持ちが歌われるが、この曲と共に夜道を走る車の中にいるふたりの解き放された顔が映し出され、こちらもその心理に共感できる。


 この曲はマリアンヌ・フェイスフルが歌手として新しい人生を歩み始めた79年の傑作アルバム「ブロークン・イングリッシュ」に収録されていた。60年代はアイドル的な可愛さで知られたマリアンヌは、恋人ミック・ジャガーとの交際を経て、やがてはジャンキーとなる。しかし、70年代後半に退廃的な雰囲気を身にまとった大人のシンガーとして再出発する。


 そんなマリアンヌ自身の自己発見の気持ちが託された曲に『テルマ&ルイーズ』のヒロインたちの心情がぴったり重なり、説得力がある。


 スコットの監督作ということで考えると、彼女たちが旅するアメリカの壮大な荒野の風景も印象的だ。スコットは宇宙(『エイリアン』)や古代ローマ(『グラディエイター』(00))、戦地(『ブラックホークダウン』(01))など、どこかゴツゴツした“荒地”を好んで背景に選んできたが、今回は文明に毒されていないアメリカの原野が舞台。エンディングで映画の中に登場するのが、アメリカの多くの西部劇の舞台となったモニュメント・バレーである。警察に追いつめられ、逃げ場を失ったテルマとルイーズは、そこである決断を迫られる。


 その決断は見た人の間で意見が分かれるものとなっている。現実的に考えれば、悲劇的な結末に思えるが、他のスコット作品を経由して再見すると、実は別の解釈も成り立つ。


 この映画で最後に描かれるのは“伝説”の誕生ではないだろうか。家族や仕事のしがらみから解放されたふたりの女性は、最後に伝説のアウトローとなる(そう、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドのように)。


 それは彼女たちの人生の終わりではなく、伝説のはじまり。そう解釈すると、神秘的なモニュメント・バレーで撮られた意味も分かる。


 この映画は製作から2021年で30年目を迎えた。テルマとルイーズは今も映画ファンに静かに愛されているが、ふたりが伝説的なキャラクターを作り上げたからこそ、長い期間に渡って支持され続けているのだろう。



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「週刊女性」、「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



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