1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. M★A★S★H マッシュ
  4. 『M★A★S★Hマッシュ』戦争なんて、軍隊なんて、くだらねえ! 名匠が放った反戦映画の傑作を紐解く
『M★A★S★Hマッシュ』戦争なんて、軍隊なんて、くだらねえ! 名匠が放った反戦映画の傑作を紐解く

(c)Photofest / Getty Images

『M★A★S★Hマッシュ』戦争なんて、軍隊なんて、くだらねえ! 名匠が放った反戦映画の傑作を紐解く

PAGES


保守的な製作体制下で、反権力的な映画を撮るには?



 ここで本作の製作時の1968年を振り返ってみよう。カリスマ的な人権活動家マーティン・ルーサー・キングや大統領選を控えた上院議員ロバート・F・ケネディの暗殺。アフリカンアメリカンの人種偏見に対する動きの活発化。そしてベトナム戦争が激化の一途をたどり、アメリカ国内での反戦の気運が一気に高まる。時代は激しく変わりつつあった。


 ハリウッドでもこの年、大きな動きがあった。過激な描写の規制を促がす“ヘイズコード”が廃止され、新しいレイティング・システムが採用されたのだ。過激な描写によっては鑑賞年齢が制限されるので、ビジネスを最優先するスタジオとしては、それは避けたい。アメリカンニューシネマの先駆けとされるバイオレントな傑作『俺たちに明日はない』(67)は前年に公開されていたが、この時点でハリウッドのメジャースタジオは保守的な姿勢を保ち続けていた。もちろん、反戦を声高に訴えるような映画は避けたかった。


『俺たちに明日はない』予告


 そんな状況下での反戦映画『マッシュ』の製作が“賭け”であったことを、ザナックは認めている。この時点では映画界での実績が未知数だったアルトマンの抜擢も、ひとつの賭けだ。じつはアルトマンにはTVシリーズ「コンバット」を演出した際、反戦のメッセージを込めたことでシーズン中に監督を降ろされるという“前科”があった。にもかかわらず、ザナックは、この才気あふれる俊英の才能に賭ける。


 アルトマンにとって幸いだったのは、20世紀フォックスが他に戦争大作を抱えていたことだ。当時、同社は『トラ・トラ・トラ!』(70)と『パットン大戦車軍団』(70)で、どちらも当時としては巨額の、1千万ドル以上の製作費を投入していた。必然的に社の上層部の注目はそちら向かい、製作費350万ドルほどの『マッシュ』は軽く扱われた。目立たずに撮影を進めたいアルトマンは、「お偉方の注目を引かないように」と、スタッフに言い渡したという。朝鮮戦争を題材にした映画というのは煙幕。アルトマンの目線の先は、泥沼化するベトナム戦争にあった。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. M★A★S★H マッシュ
  4. 『M★A★S★Hマッシュ』戦争なんて、軍隊なんて、くだらねえ! 名匠が放った反戦映画の傑作を紐解く