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『RAW~少女のめざめ~』新進気鋭のフランス人女性監督が描く、ホラーを纏った“ジュスティーヌ”の青春

『RAW~少女のめざめ~』新進気鋭のフランス人女性監督が描く、ホラーを纏った“ジュスティーヌ”の青春

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伝説の背徳作家マルキ・ド・サドも描いた少女“ジュスティーヌ”



 主人公のジュスティーヌという名前は、デュクルノー監督が2011年に発表した短編「Junior」と同じで、どちらの作品でもジュスティーヌはギャランス・マリリエが演じている。監督の発言によると同作は「爬虫類の脱皮のような形で変化を遂げる、13歳のボーイッシュな女の子の物語」だという。筆者はまだ一部のシーンしか観られていないのだが、ヒロインが性的なものを封じ込めている段階にあり、すでに解放されている身近な存在として姉が登場することなど『RAW~』との共通点がはっきりと見てとれる。


 主人公のジュスティーヌという名前は、Justice(正義)にも通じている。正しくありたいとい願いがその名に込められた女性が、世間の規範ではタブーとされる世界の扉を開けるという非常に象徴性の高いネーミングだ。


 ここで文学好きの人が思い浮かべるのが、サディズムの語源となった18世紀の背徳作家マルキ・ド・サドの代表作「美徳の不幸」と「悪徳の栄え」ではないだろうか。「美徳の不幸」は「ジュスティーヌあるいは美徳の不幸」「新ジュスティーヌ」のタイトルを変えながら加筆や修正を加えられた小説で、ジュスティーヌという美徳と礼節を重んじる少女が幾多の悲劇に見舞われる。「悪徳の栄え」はジュスティーヌの姉ジュリエットが、ありとあらゆる背徳行為を積み重ねていく悪行三昧の物語だ。


 サドが描いたジュスティーヌとジュリエットは修道院で敬虔に育てられてきた姉妹だが、生来奔放な姉ジュリエットは堕落の道をひた走り、美徳を守ろうとするジュスティーヌは不幸のどん底へと突き落とされる。デュクルノー監督が、この文学史上大きな物議を醸した姉妹のことを知らずに『RAW~』や「Junior」を作り、主人公をジュスティーヌと名付けたとは考えづらい。むしろ『RAW~』はデュクルノー監督がサドの世界を咀嚼して、独自の解釈を拡大させたものだと考えられる。



ジュリア・デュクルノー監督


 『RAW~』が描く少女のカニバリズムを、サドが描いた異常性欲になぞらえることもできる。ただ社会のあらゆる良識を逆なでするように快楽の追求を描き続けたサドと違って、デュクルノー監督が見つめているのはもっとパーソナルな、等身大の青春である。本作は、誰にとっても身近な題材を、映画でしかできない強烈な映像表現に昇華させているのだ。「なぜそんなに回りくどいことを?」と問われれば、これこそが映画の醍醐味だからです!と、勝手にデュクルノー監督に代わって力説したい。



文: 村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。



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作品情報を見る


『RAW~少女のめざめ~』

TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか、全国公開中

© 2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

© Dominique Houcmant Goldo

© Pieter De Ridder


※2018年2月記事掲載時の情報です。

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