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『シド・アンド・ナンシー』パンクなラブストーリーにして伝記映画、そして痛烈な風刺劇

(c)Photofest / Getty Images

『シド・アンド・ナンシー』パンクなラブストーリーにして伝記映画、そして痛烈な風刺劇

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名曲“マイ・ウェイ”も荒々しくパンクと化す!



 最後に、音楽について触れておこう。ピストルズ名義のナンバーは本作では使用されておらず、主な音楽はジョー・ストラマーとザ・ポーグスによって制作された。前者はピストルズと同時代を駆け抜けたパンクバンド、ザ・クラッシュのフロントマン。後者はアイリッシュトラッドにパンクをかけ合わせた音を鳴らすバンドで、フロントマンのシェイン・マガウアンはロンドンでパンク全盛期を体感している。いずれも当時を知るアーティスト、というわけだ。


 この後、ストラマーとポーグスはコックスの次作『ストレート・トゥ・ヘル』に役者として出演。ストラマーは『ウォーカー』でも音楽を手がける。コックス作品で築かれた両者の絆はマガウアン脱退時のポーグスに、ストラマーが参加するという事態に発展。一方、抜けたマガウアンはソロに転向後、いくつかのヒット曲を放つが、そのひとつは『シド・アンド・ナンシー』でも聴けるスタンダードの名曲“マイ・ウェイ”のパンキッシュなカバーだった。


“My Way” Gary Oldman


 その“マイ・ウェイ”についても触れておこう。劇中のシドはステージ上で、この曲を歌うのだが、この場面はピストルズのセミドキュメンタリー映画『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』(80)で、シド本人が“マイ・ウェイ”を歌う場面をモチーフにしている。ゲイリー・オールドマンが、シドの動きやクセをよくとらえているのは、『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』の同場面と見比べると、よくわかるだろう。


 オールドマンは、この後、演技派として目覚ましい活躍を見せるが、実在の人物に扮した時に、とりわけ光るのは、近年の主演作を見ても明らかだ。アカデミー賞で主演男優賞を受賞した『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(17)は特殊メイクの効果もあり、第二次大戦期の英国首相チャーチルに凄みをあたえていた。今年、実在の映画脚本家に扮して同主演男優賞候補となった『Mank/マンク』(20)も記憶に新しい。『シド・アンド・ナンシー』は、そんなオールドマンの凄みの原点としても、見るべき作品でもある。



文:相馬学

情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。



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