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『シド・アンド・ナンシー』パンクなラブストーリーにして伝記映画、そして痛烈な風刺劇

(c)Photofest / Getty Images

『シド・アンド・ナンシー』パンクなラブストーリーにして伝記映画、そして痛烈な風刺劇

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アメリカなんて、クソくらえ! イギリスの異才の反骨心



 伝記ドラマ、ラブストーリー以外にも、本作は面白い見方ができる。それはアメリカという国に向けた風刺のまなざした。


 監督のアレックス・コックスはイギリス生まれ。名門オックスフォード大学で法律を学び、ブリストル大学在学時にパンクロックの洗礼をモロに受け、その後、渡米して映画製作を学んだ。1984年のデビュー作『レポマン』は米ロサンゼルスの消費社会を風刺しつつSFスリラーを紡ぐ。2作目の本作は後述するとして、1987年の3作目『ストレート・トゥ・ヘル』では、米国伝統の西部劇に茶化しながら、そこに生じる混沌をエネルギッシュに描き切った。そして同年の4作目『ウォーカー』では19世紀半ばのニカラグアで独裁政権を打ち立てようとした米国人ウィリアム・ウォーカーの暴走を、史実に基づいて描いたもの。19世紀には存在しなかったヘリコプターや高級車をあえて登場させたのは、20世紀のアメリカの現実と何ら変わりはないというコックスのジョークだ。


『レポマン』予告


 1980年代のイギリスは、レーガン政権下のアメリカに倣い、消費主義と右傾化の一途をたどり、富のない労働者階級はないがしろにされた。本作がイギリスで公開された同年に英国の音楽チャートを上昇したザ・ザのナンバー“ハートランド”では“この国はアメリカの51番目の州”と揶揄されたほどだが、コックス自身の言葉では、こうなる。「イギリスはアメリカ文化の植民地だ」


 それを踏まえて『シド・アンド・ナンシー』を見ると、コックスが込めた痛烈な皮肉が見えてくる。ナンシーという米国人女性が、シドという英国人青年をたぶらかし、彼がそれに応えたことで破滅の道をたどる。アメリカに追随するイギリスは、どんどんダメになっていく……これは1980年代の英米の関係への、手厳しい批判とも思えてくる。




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