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『セックスと嘘とビデオテープ』カメラを持った天使/悪魔が生み出す“出会いによる変化”

(C) 1988 Outlaw Productions. All Rights Reserved.

『セックスと嘘とビデオテープ』カメラを持った天使/悪魔が生み出す“出会いによる変化”

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登場人物それぞれが抱える個人的な問題



 本作の登場人物たちは、誰もがそれぞれに問題を抱えている。先に述べているように、ジョンは妻の妹と関係しており、アンは精神を病んでいる。対外的には良好な夫婦関係に思えるが、実際そうではないのだから「仮面夫婦」ともいえるだろう。そして、奔放な性格のシンシアは姉の夫と関係し、どこか陰で姉を弄んでいるようなフシがある。そんな乱れた彼らの関係性をさらに乱す闖入者・グレアムも例外ではない。


 ジョンとグレアムは、大学時代の旧友同士。これが9年ぶりの再会らしい。9年もの歳月があれば人はいくらでも変わるものだと思うが、グレアムの変貌ぶりはジョンからすれば異常なまでのもののようだ。彼は大学時代のグレアムのことを「イカれ野郎」と評している。たしかにただならぬ雰囲気をまとった男ではあるが、「イカれ野郎」というのはどうにもピンとこない。物腰はやわらかく、寡黙で、口を開けば“誠実さ”の感じられる言葉が飛び出す男だ。いったいグレアムに何があったのか?


 どうやら現在の彼は、性的に不能であるらしい。とはいえ、ひとりのときには問題がないようだ。つまり、他者を前にすると不能になるのだという。しかし性行為とは一般的に、“他者との触れ合い”を前提としている。だから彼は自らを不能なのだと自覚し、女性たちが性的な事柄について語るビデオテープを数多く所有。これが彼の特殊な性嗜好であり、“表向きの”問題となっている。“表向き”と記したのは、これが彼の本質的な問題ではないからだ。グレアムの真の問題は、他者との関わり合いを避けていることにある。



『セックスと嘘とビデオテープ』(C) 1988 Outlaw Productions. All Rights Reserved.


 私たちが生きる社会においてもそうだが、個人の悩みや問題というのは、それがどんな類いのものであれ、当人にとっては重大なものだ。ときにそれは、自らで命を絶つきっかけになり得るし、周囲の人々との関係性に多大な影響を与えたりもする。


 世界中で飢えている子どもたちがいるという問題に比べ、自身の悩みなど大したことはないのだと、アンはジョンに打ち明けている。しかし、個人の抱える問題と、世界的な問題はイコールではない。これはどちらが深刻なのかということでなく、先述しているように当人にとって重大なものであれば、比べられはしないのだということである。もちろん、個人と個人──たとえば、アンとグレアム──の悩みもイコールではない。それが同じように、「性」や「心」にまつわるものであってもだ。両者が違う人間であるかぎり、比べられるものではないのである。




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