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『追いつめられて』ケネス・フィアリングの小説「大時計」をめぐる3つの映画

(c)Photofest / Getty Images

『追いつめられて』ケネス・フィアリングの小説「大時計」をめぐる3つの映画

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撮影・美術・音楽には著名な技術スタッフが参加



 『追いつめられて』は、海軍士官のファレル(ケヴィン・コスナー)がパーティーで出会った魅惑的な女性スーザン(ショーン・ヤング)と、一瞬で恋に落ちることで物語が動き出す。スーザンは、“とある事情”を抱えているという設定。ちなみに、ふたりがリムジンの後部座席で愛し合う場面で使用されている楽曲こそ、先述したポール・アンカの「夕暮れの街」だった。一方、ファレルは勇敢な救助行動を国防長官のデヴィッド(ジーン・ハックマン)から評価され、直属の任務に就くこととなる。実はデヴィッドもまた、愛人がいるという“とある事情”を抱えていた。その愛人というのが、ファレルの愛するスーザンなのである。お互いの素性を知られてはならないという危うい三角関係が生じてゆく、というのが『追いつめられて』前半の展開。


 物語の舞台は国防総省(ペンタゴン)となるわけだが、当然、建物内部は国家機密扱い。外観など一部の撮影しか許可が下りなかったため、内部を再現した迷路のようなセットがMGMスタジオに組まれたことでも話題となった。この美術を担当したデニス・ワシントンをはじめ、モーリス・ジャールによる不穏に満ちたスコアや、冒頭の長回しも印象的な撮影のジョン・オルコットなど、『追いつめられて』には著名な技術スタッフが参加している点も特徴のひとつ。ちなみに、この映画で使われた撮影フォーマットは、35mmフィルムの音声帯も映像データとして使用するという、当時はまだ主流でなかった<スーパー1.85>と呼ばれる規格だった(後に<スーパー35>と統一して呼ばれるようになる)。

 

『追いつめられて』(c)Photofest / Getty Images


 撮影監督のジョン・オルコットは、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(68)で照明を担当し、それを機に『バリー・リンドン』(75)や『シャイニング』(80)の撮影を担当して名を馳せた人物。つまり、映画の撮影技術に対する革新に貢献した人物でもあるのだ。残念ながら、オルコットは55歳の若さで急逝。『追いつめられて』が彼の遺作となったため、エンドロールには本作をジョン・オルコットに捧げる旨の記述がある。監督のロジャー・ドナルドソンと美術のデニス・ワシントンは、『ダンテズ・ピーク』(97)や『世界最速のインディアン』(05)などで組んでいる朋友。また、ふたりが組んだ『13デイズ』(00)では、再びケヴィン・コスナーと組んでいるという縁もある。


 ケヴィン・コスナーは自らスタントを演じることを好む傾向にあり、このことが後にハリウッドで煙たがられる存在となってゆく理由のひとつとなってゆくのだが、『追いつめられて』でも保険会社を激怒させたという場面がある。スーザンの友人に危険を伝えるため、ファレルは追っ手から逃れながら街中を疾走。その追跡シーンで、道路に飛び出したファレルが車と衝突するというくだりがある。このショットをよく見ると、カットが割られ、衝突する直前まではスタントに任せているものの、ボンネットに乗り上げ回転して道に落ちるファレルを、明らかにケヴィンが演じていることが窺える。


 映画の保険会社としては、主演男優が怪我をしてしまえば撮影がストップしてしまい、その期間の保険金を支払わなければならなくなる。それゆえ、危険な場面ではスタントマンを使うのが常なのだ。だが、ケヴィンは度々劇中の危険なスタントを自らこなし、保険会社から目をつけられるようになる。その片鱗を、『追いつめられて』でも目撃することができるのだ。





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