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『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』アル・パチーノが体現する人生の教訓

(c)Photofest / Getty Images

『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』アル・パチーノが体現する人生の教訓

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役の“メンタル”と“フィジカル”に肉薄する演技



 アル・パチーノが演じるフランク・スレード中佐は退役軍人。彼には、ふたつの大きな特徴がある。ひとつは、こだわりが強くて融通がきかず、ひじょうに口が悪い人物であること。そして、もうひとつの特徴は、中佐が盲目であることだ。


 物語は、苦学生・チャーリー(クリス・オドネル)が彼のもとを訪れることから動き出すが、初対面の若者に対し、皮肉的かつ侮蔑的な言葉を中佐はこれでもかと浴びせかける。ここで彼がコテンパンにやられながらもなんとか踏みとどまる姿勢に、この青年の性格が表れている。各キャラクターの性格と関係性を端的に示すこの冒頭のシーンは秀逸だ。


 中佐は気難しい性格の持ち主で、目が不自由。演技とは、演じ手自身のメンタルとフィジカルを複合的に操作し、“自分ではない何者か=物語上のキャラクター”を作り上げていくものだ。この中佐という人物を演じるには、メンタル面においてもフィジカル面においても、高い次元での操作が求められることが分かる。



『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(C) 1992 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.


 最終的に中佐はチャーリーにとってかけがえのない存在となっていくのだが、その難のある性格と、そこから彼が変化していくさまを示す演技表現は、その落差やバランス配分を誤れば、“話の都合上心変わりした人物”というところにまで中佐役の価値を貶めかねない。そしてフィジカルに関して、つまり目が不自由であることを示す演技に関しては言わずもがなだ。やりようによっては嘘くさいものになってしまうだろう。


 リー・ストラスバーグ主宰のアクターズ・スタジオにて、アル・パチーノが「メソッド演技」を学んでいたことは広く知られている。ただし、彼のように「アメリカン・ニューシネマ期」に名を上げた多くの名優がここの出身者であるから、それ自体は何も特別なことではない。


 この「メソッド演技」とは、平たく言えば“役の内面の掘り下げ”である。しかし、いくら中佐役の内面を掘り下げたからといって、それが“目が不自由”というフィジカル面にまで反映されるわけではないだろう。一概に視覚障害といっても、それを抱える人によって症状は異なる。瞳を固定させたアル・パチーノのフィジカル面の演技と、劇中で語られる、失明の原因となる事故を引き起こすような中佐の性格を表面化させたメンタル面の演技とが、高い次元で結合。オスカー受賞も当然な演技を刻んでいるのである。




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