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『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』アル・パチーノが体現する人生の教訓

(c)Photofest / Getty Images

『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』アル・パチーノが体現する人生の教訓

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「足が絡まっても踊り続けて」



 さて、アル・パチーノの演技に関して記してみたが、ただ俳優の演技が素晴らしいだけでは、忘れられない映画にはなりえないだろう。素晴らしい作品にはテーマが必要だ。本作でこのテーマを体現しているものこそ、アル・パチーノ自身なのである。つまり、彼の演技の凄みこそが、本作のテーマに強度を与えることになるのだ。


 本作は、気難しい盲目の退役軍人フランク・スレードの世話を、苦学生チャーリーがアルバイトとして引き受けるところから始まる。だが、この心優しいチャーリーは、とある問題を抱えている。同級生が校長の愛車にイタズラを仕掛ける場面を目撃した彼は、犯人の名前を明かせばハーバード大学への推薦をしてやると、校長から取引を持ちかけられているのだ。同級生たちは「友人」と呼びたくもないようなつまらない連中で、彼らの悪事を明かすだけで名門大学への道が拓けるのだ。しかし、チャーリーはそうはしない。それは同級生たちを守るためではなく、取引に応じることが魂を売る行為であり、自身の尊厳を傷つける行為だからである。そして、そんな曇った心持ちの状態で、チャーリーは中佐に、なかば強引にニューヨークへと連れていかれることになる。



『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(C) 1992 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.


 中佐はこの“旅立ち”に際して、チャーリーに「君の人生教育の始まりだ」と述べる。いくら成績が優秀であっても、人生のことは机の上だけでは学べない。外に出て、誰かと出会い、話し、思考し、行動してみることが重要ということだ。しかしそれは中佐もまた同じ。彼は“孤独”というより“孤高”という言葉の方がしっくりくる男だが、独りぼっちであることに変わりはない。そのままでは、やがては老いて朽ちていくだけだ。若い魂に触れることで得られる学びもあるはず。この物語は、年の離れた人間同士の成長譚なのだ。いつだって、どこでだって、人間は学ぶことができる。


 本作は、目に映るすべてのシーンが印象的だが、“名シーン”とされているものがある。中佐と若い女性(ガブリエル・アンウォー)がタンゴを踊るシーンだ。ここで中佐は、私たち観客にとって、シーンそのもの以上に印象に残るセリフを口にする。それは、タンゴを踊るのに失敗してしまった場合に、どうすればいいのか自身の考えを述べた「足が絡まっても踊り続けて」というもの。これはそのまま“人生”に迷う、チャーリーにも贈られることになる。人生とはタンゴのようなもの。足が絡まっても、踊り続けるしかないのだ。そしてそれは、いくつであっても、どこにいても、誰にでも当てはまるものなのである。



文:折田侑駿

文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。敬愛する監督は増村保造、ダグラス・サーク。



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『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』

Blu-ray:2,075円(税込)

DVD:1,571円(税込)

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

(C) 1992 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

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