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『ストップ・メイキング・センス』トーキング・ヘッズ×ジョナサン・デミが生み出した、“体感”する音楽映画

(c)Photofest / Getty Images

『ストップ・メイキング・センス』トーキング・ヘッズ×ジョナサン・デミが生み出した、“体感”する音楽映画

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映画化はジョナサン・デミ監督のアイデア



 映画化を最初に思いついたのはジョナサン・デミ監督だった。80年代に刊行されたデイヴィッド・カンズ著の本、“Talking Heads”に掲載されたインタビューによると、デミはロサンゼルスのグリーク・シアターで行われたコンサートに感動して、映画化を考え始めたという。「そのコンサートは不思議なエモーションの旅に思えた。まるで映画を見ているような気になった。バンドのツアーの映画化に彼ら自身も興味を持ってくれた」とデミは語っている。


 もっとも、かつてのヘッズにはそういう感情はわかなかったようだ。“LA Weekly”(84年11月9日)に掲載された別のインタビューではこんな話もしている。「彼らのコンサートを最後に見たのは78年で、ニューヨークのセントラル・パークでの公演だった。当時の彼らはまるで4人のロボットに見えた。しかし、グリーク・シアターの公演ではあらゆるレベルでバンドが進化を遂げていて、その広がりがスリリングに思えた。そのコンサートにはストーリー性があった。素晴らしいロックのコンサートだが、ただのコンサートを超えたものになっていた」


 映画化を発案したものの、ロックのコンサート映画に出資する人は見つからず、ヘッズが自ら製作費(約120万ドル)の大半を調達したという。撮影は1983年12月のロサンゼルスのパンテージ・シアターで行われ、撮影時は7台のカメラとソニーのデジタル・サウンドを使った(前述の本、“Talking Heads”によれば、すべてをデジタルで録音した初めての音楽映画となった)。右からのアングル、左からのアングルなど、撮影日によってカメラの位置を変えて撮影していったという。



『ストップ・メイキング・センス』(c)Photofest / Getty Images


 DVD収録のオーディオ・コメンタリーによれば、参考にした映画が2本あったという。マーティン・スコセッシのコンサート映画の傑作『ラスト・ワルツ』(78)とニール・ヤングのコンサート映画“Last Never Sleeps”(79)。実はデミ監督は21世紀に入ってからニール・ヤングの音楽映画を3本撮っている(ヤングも映像表現に興味を持っているミュージシャンのひとり)。そのうちの1本、『ニール・ヤング/ハート・オブ・ゴールド 〜孤独の旅路〜』(06)は、ナッシュヴィルで行われたヤングと仲間たちのコンサートを映像化した作品で、素朴な温かさが魅力になっている(美しい映像を作り上げた撮影監督は『アメリカン・ユートピア』のエレン・クラス)。


 デミは人物から人間的な魅力を引き出すのがうまく、彼と組むことで俳優たちはベストな演技を見せることも多い(『羊たちの沈黙』のジョディ・フォスターとアンソニー・ホプキンス、『フィラデルフィア』(93)のトム・ハンクスは、オスカーを手にしている)。『ストップ・メイキング・センス』では、舞台上でほとんど話さないミュージシャンたちのおどけた顔や真剣な顔など、表情のとらえ方がうまく、だんだん、その人物のキャラクターが見えてくる(『ハート・オブ・ゴールド』のミュージシャンたちにも同じことがいえる)。


 コンサートをただ撮っているのではなく、登場人物たちの描写に温かいふくらみがあるところが、デミ映画の魅力で、その個性はこの映画でも生きている。


 彼は人物のパフォーマンスの瞬間をとらえるのもうまく、『羊たちの沈黙』ではレクター役のホプキンスが、塀の中で相手をマインド・コントロールする戦慄のパフォーマンスを見せた。また、『フィラデルフィア』では死の淵に立つ主人公を演じるトム・ハンクスが、マリア・カラスのオペラに身をゆだねながら、究極のパフォーマンスを演じた。


 『ストップ・メイキング・センス』のバーンは、メガネや電気スタンドなどの小道具を使って吸血鬼から優しい都会人まで“七変化”的な演技を見せる。デミのパフォーマンス監督としての技が発揮されることで多くの視覚的な見せ場が誕生している。





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