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『1秒先の彼女』感情のピースが形作る、物語という名のパズル

(C)MandarinVision Co, Ltd

『1秒先の彼女』感情のピースが形作る、物語という名のパズル

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時間のパズル



 消えた一日。人よりテンポが早いことで何かを逃し続けてきた彼女は、消えてしまった一日を取り戻す旅に出る。逆に、人よりテンポが遅いことで何かを逃し続けてきた彼は、空白の一日に思い出を新たに作り直す。安部公房の短編小説「詩人の生涯」のように、止まってしまった空白の時間、空白のキャンパスの中で、彼は彼女への思いだけを、写真という名の「作品」に紡いでいく。


 『1秒先の彼女』は、ドラマチックな変化とは無縁の人生でも、人は気づかない内にどんどん変わっていくことができるのだということを教えてくれる。既に起きているその変化に気づけるか否か。この世界では、タイミングが合うということ自体が、まったくの偶然の重なりで出来ている。



『1秒先の彼女』(C)MandarinVision Co, Ltd


 何も起きていないように見える日常の中で、実は既に起きている変化の機微に注視=フォーカスできるかどうか。シャオチーに思いを寄せるグアタイは、いつもカメラを首にぶら下げている。彼は決定的な瞬間にピントを合わせる日が来るのを待ち望んでいる。ピントが合う=自身の発見。劇中の言葉で言うところの「誰かに愛されているからこそ、自分を愛さねばならない」ことに気づくために。


 失われた時間を取り戻すという点において、チェン・ユーシュンが大好きな『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(リチャード・カーティス/13)のことを思い出す。もっとも、『アバウト・タイム』の主人公は、タイムトラベルで取り戻してはいけない人生があることを最後に知る。もしかしたら、タイムトラベルがあろうがなかろうが、彼と彼女は運命的に出会ったのかもしれない。そう思わせてくれるだけの説得力を、映画のマジックと呼ぶべきか、人生のマジックと呼ぶべきか。


 『1秒先の彼女』の彼と彼女も、ほんの少しの時間の掛け間違えに過ぎないのだろう。運命は彼や彼女の味方だ。




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