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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』ヴァンパイアを通じて描かれる、ジム・ジャームッシュとその世界

(c)2013 Wrongway Inc., Recorded Picture Company Ltd., Pandora Film, Le Pacte & Faliro House Productions Ltd. All Rights Reserved. 

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』ヴァンパイアを通じて描かれる、ジム・ジャームッシュとその世界

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デトロイトとタンジールという街の設定



 この映画の恋人たちは別々の場所で暮らしている。アダムはデトロイト、イヴはアフリカのタンジールにいる。こうした街の設定に関して、ジャームッシュは前述の雑誌でこう語る――「デトロイトは人けのないゴーストタウン。タンジールはきれいな場所ではないが、活気に満ちている」デトロイトでアダムの部屋として使われた屋敷は実在していて、1893年に建てられ、撮影時には130年以上が経過していたという歴史的な建造物。


 かつては車などを作る工業地帯として知られたデトロイトは、いつの間にかさびれてしまい“ラストベルト”と呼ばれる荒廃した場所になってしまった。その荒涼とした雰囲気が、今の時代に苦々しい思いを抱くアダムに合う。デトロイトはソウル・ミュージックのメッカ、モータウンの発祥地で、アダムが「モータウン博物館もあるよ」とイヴに言うと、彼女が「私はスタックス派よ」と返事を返すところがジャームッシュ映画らしい会話になっている(スティーヴィー・ワンダーなどを輩出したモータウンはデトロイトのソウルで“ノーザンソウル”と呼ばれたが、スタックス・レコードはテネシー州メンフィス生まれで、“サザン・ソウル”と呼ばれた)。


 後半、舞台はアフリカのタンジールに移り、マーロウをめぐる思わぬ悲劇が描かれる。それまで恋人たちは良質の血を特別の場所で調達し、赤ワインのように飲むことで生きながらえてきた。しかし、思わぬ危機に直面して、生き残りをかけて、大きな決断を下すことになる。今の時代に迎合する気はなく、古い時代の遺産を守りたいと思っているふたりだが、まずは生きのびなくてはいけない。そんな恋人たちの究極の決意が胸にささる幕切れになっている(このふたりには、ジャームッシュと彼の長年のパートナー、サラ・ドライヴァーとの関係も投影されているのだろうか?)

 

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(c)Photofest / Getty Images


 それにしても、どうしてタンジールが舞台に? ここからは筆者の推測でしかないが、故郷を捨て、タンジールに住んだ文学者として、まず浮かぶのは映画化もされた小説「シェルタリング・スカイ」の作者、ポール・ボウルズである。彼は自身と妻ジェーンとの体験をもとにこの名作を書き上げたが、妻の名前は作品の中で“キット”に変えられている。今回のジャームッシュ映画で作家のマーロウは、ヒロインに“キット”と呼ばれているので、もしかすると、ボウルズのことも意識したのだろうか?


 ボウルズはニューヨークにいた頃は、ウィリアム・バロウズなど、ビート派作家の仲間のひとりと考えられていたが、実はジャームッシュ自身もビート派の作家たちと交流があった。そんな流れでボウルズへのリスペクトを込めて、タンジールという街を映画に登場させたのかもしれない。


 ジャームッシュはかつてボウルズ原作の小説「ユー・アー・ノット・アイ」(80、ビデオ公開、監督はサラ・ドライヴァー)の脚色も手がけていた。この映画のフィルム・プリントは、長年、行方が分からなかったが、2011年にタンジールで発見されたという。なんとボウルズの執事がフィルムを発見したという(ボウルズはすでに他界)。そんな話を知ると、ハート演じるマーロウ像にはボウルズもかぶって見える(マーロウとボウルズにはゲイ的な傾向があった、という共通点もある)。


 『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』はシンプルな物語だが、そこにさまざまな要素が入っていて、その謎めいた設定を読み解くことがスリリングに思える作品になっている。



文:大森さわこ 

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「週刊女性」、「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



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