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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』ヴァンパイアを通じて描かれる、ジム・ジャームッシュとその世界

(c)2013 Wrongway Inc., Recorded Picture Company Ltd., Pandora Film, Le Pacte & Faliro House Productions Ltd. All Rights Reserved. 

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』ヴァンパイアを通じて描かれる、ジム・ジャームッシュとその世界

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どう生きぬくのか? 今という時代への問いかけ



 映画には作り手の(製作時の)心情が映し出されることが多いが、特にジャームッシュのように、インディペンデントの作家としてパーソナルな作品を撮り続ける監督は、撮った時の心情がより反映されやすいと思う。この映画は13年の作品で、その後は『パターソン』(16)、『デッド・ドント・ダイ』(19)と続き、今の時代に対する彼の心情が読み取れる。


 80年代に『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で登場して、30代前半にしてインディペンデント映画界の寵児となったが、そんな彼も『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』の公開時にはすでに60歳。ハリウッドの商業主義の波にのまれることなく、マイペースで淡々と作品を撮り続けるのは、けっしてラクではなかったはずだが、それでも、なんとか(ヴァンパイアのように?)生きのびてきた。そして、デジタル時代が始まり、映画作りもさらに変わったが、そんな変化に対する彼の心情も読み取れる設定になっている。


 ミュージシャンであるアダムは古いギターや録音機材を大事にしていて、CDではなく、アナログのレコードを愛聴する。19世紀の詩人、バイロンやシェリーとつきあいがあり、同じく19世紀のシューベルトに曲を提供し、1950年代のちょっとワイルドなロッカー、エディ・コクランの生演奏も見たことがあるという(コクランは21歳で他界した伝説のロッカー)。彼の部屋の壁にはバッハ、ブレヒト、カフカ、オスカー・ワイルド、ビリー・ホリデー、ニール・ヤング、パティ・スミスなど新旧の才人たちの肖像画や写真が飾られている(この映画の中でジョン・ハートが演じる16世紀の英国の作家、クリストファー・マーロウ本人の肖像画もある)。

 

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(c)Photofest / Getty Images


 イヴは紙の本が大好きで、旅に出る時はジュール・ヴェルヌの小説「ハテラス船長の冒険」などの古い名作や画集もトランクに詰める(80年代に20代で亡くなったNYの天才画家、バスキアの画集も持っていくが、これは生前のバスキアを知っているジャームッシュの趣味の反映だろう)。ふたりは時代を超えて語り継がれる偉大な音楽や文学などを大切にしていて、アナログ・カルチャーに対する思い入れの深さが伝わる。


 もっとも、イヴはスマホも使っているので、デジタル文化のすべてを否定しているわけではない(アダムの方はアナログ志向がもっと強く、古い型のテレビにテレビ電話を映して見ている)。この場面を見て思い出したのが、3年後に撮った『パターソン』の人物像である。主人公のパターソン(アダム・ドライバー)は小さな町でバスの運転手をしながら、妻や愛犬と穏やかな暮らしを送っている。スマホを持たない彼は紙のノートに自作の詩を書きつけていて、アメリカの詩人たちをリスペクトしている。世間の流行や風潮には背を向け、自分の信じる世界をひたすら追求しようとする人物像はジャームッシュ自身の分身かもしれない。


 その後の『デッド・ドント・ダイ』には、トム・ウェイツ扮する森で暮らす世捨て人が登場し、自身の欲望の虜となった結果、ゾンビとなってしまう人々をあざ笑うような場面もあった。『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』にも、今の時代に対する憂いやユーモラスな風刺が感じられる。


 ヴァンパイア、ゾンビなど、ホラー映画のスタイルを借りたジャームッシュ作品には社会風刺的な視点が強く出ているが、まん中に『パターソン』を置くと、ジャームッシュの近年の心情がうかがえる気がする。生きづらい世の中になっても、なんとか自分らしい感情を大切にしたい。そう考える人々の静かな葛藤が見えるような気がする。


 『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』では、後半、刹那的に生きるイヴの妹、エヴァ(ミア・ワシコウスカ)が登場して、姉たちの世界をかき乱し、取り返しのつかない事件が起きる。お騒がせなエヴァの登場で、主人公たちは新しい決断を強いられることになり、別の場所へと移動。そこで、また、別の危機に直面するという展開になっている。





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