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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』ヴァンパイアを通じて描かれる、ジム・ジャームッシュとその世界

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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』ヴァンパイアを通じて描かれる、ジム・ジャームッシュとその世界

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ティルダ・スウィントンという英国女優の魅力



 アメリカ映画『フィクサー』(07)で弁護士役を演じてアカデミー助演女優賞を演じたティルダ・スウィントンは英国出身の個性派女優。近年はウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』(12)、『グランド・ブダペストホテル』(14)やアメコミ作品『ドクター・ストレンジ』(16)等にも出演して、幅広い観客層にも知られるようになったが、彼女のスタートは英国のインディペンデント映画だった。


 初めて大役を演じたのは、イタリアの画家を描いた『カラヴァッジオ』(86)で、英国のアート系監督、デレク・ジャーマンの出世作となった。その後は『アリア』(オムニバス映画、87)、『ラスト・オブ・イングランド』(88)、『ウォー・レクイエム』(89)、『ザ・ガーデン』(90)、『エドワードⅡ』(92)、『ヴィトゲンシュタイン』(93)等、次々にジャーマン作品に登場して彼のミューズ的な存在となった。


 もともとは画家で、ケン・ラッセル監督の大傑作『肉体の悪魔』(71)の美術を担当して映画界に入ったジャーマンは類まれな美意識を持っていた。この世のものとも思えないほど美しかった当時のティルダは、そんな彼の美学を体現する女優だった。実は80年代後半にティルダがジャーマンらと一緒に来日した時、彼女に会ったことがある。スラリとした長身で、モデルのように洋服の着こなしがうまく、知的で品のいいお嬢さん、という印象だった。まだ初々しい雰囲気が残っていたが、当時は今のようにハリウッド映画でも活躍する女優になるとは夢にも思わなかった。

 

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(c)Photofest / Getty Images


 そんな彼女が心から尊敬するジャーマンは、抑圧されたゲイの権利のために戦い続ける監督としても知られ、90年代にはクリストファー・マーロウ原作の『エドワードⅡ』を映画化している。同性愛のため、悲劇的な末路をたどる14世紀の王、エドワード2世と彼の王妃イザベラの物語で、そこに現代英国のゲイ差別の問題も絡めたパワフルな傑作だった。王に裏切られた王妃、イザベラに扮したのがティルダ・スウィントンで、王の愛を得られないため、次第に邪悪になっていくヒロインを好演して、ヴェネチア映画祭の主演女優賞も手にしている。


 今回の映画ではクリストファー・マーロウもヴァンパイアとして登場し、タンジールに住むイヴの家の近くに住んでいる。『エドワードⅡ』の映画版を知る人間としては、この作品の原作者のマーロウとティルダ扮する人物が友人関係という設定がうれしくなるだろう。


 ジャームッシュ自身はティルダの起用に関して、こんな発言をしている――「ヴァンパイアはぶざまなモンスターではなく、すごく洗練されている。僕にはティルダはすごくヴァンパイア的なイメージがある。彼女は青白く、整った顔で、すごく優雅な動きを見せる」(“Time Out”2014年2月18日号)ふたりが初めて組んだ作品は『ブロークン・フラワーズ』(05)だったが、他にも『リミッツ・オブ・コントロール』(09)や『デッド・ドント・ダイ』でもコンビを組んでいる。


 思い返すと、『エドワードⅡ』には意味深な描写があった。夫に裏切られた後、権力欲に取りつかれたイザベラはエドワード2世の弟を殺害する。その時、彼女は弟の首に歯を立てる。最初は純真だった王妃が遂にはヴァンパイアのような女になってしまった、という残酷なオチ。デレク・ジャーマンの著作「エドワードⅡ Queer」(アップリンク、河出書房新社刊)によれば、現場では「(この場面のせいで)ティルダにホラー映画の出演依頼が殺到するんじゃない」という声が飛び交ったというが、遂にヴァンパイアとして主役を演じる日がやってきた、というわけだ。





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