© 2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.© 2009 Dark Castle Holdings, LLC. All rights reserved.
『エスター』を特別な作品たらしめる、子供ホラーから飛躍する虚構 ※注!ネタバレ含みます。
「ゴス」の悲しみ
小・中学生時代にこんな「同級生」はいなかったろうか?引っ込み思案と言うには引っ込みが過ぎるが、必要な会話は出来ているし、言葉少ないながら弁もたつ。聡明で勉強もよく出来るが、学級委員などの表立った場には絶対に出てこない。「死」や「セックス」といったタブー視されるものに興味を持ち、こどもの本では幼稚すぎて、大人が読むような本を読みふける。
この「同級生」は、他のクラスメイトが幼く見えてしまい、話をするのもバカバカしく思っている。とはいえ年長者のグループに入ろうと思っても、今度は見た目の幼さから、まさに「子供扱い」されてしまう。精神年齢と肉体のギャップに絶望しているのである。『エスター』の少女エスターは小・中学生時代に居たであろう、教室の隅でバリアを張るように周囲を拒絶していた、この「同級生」の事だ。
少女エスターは孤児院の中で、楽しく集まって遊ぶ子供たちからは距離を取り、独り教室で絵を書いている。彼女が着ているのはクラシックな仕立ての丸襟のワンピースやサロペットスカートだ。冬のアウターもダウンジャケットのような気軽なものでは無く、コットン生地の分厚く重そうなコートである。そして、首と手首には常に黒いリボンを巻いている。彼女はセックスや死といったタブー視される事柄を愛し、強い忍耐力と高い知性で欲望の成就を目指す。
『エスター』© 2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.© 2009 Dark Castle Holdings, LLC. All rights reserved.
これらは、エスターが、あの「同級生」であると同時に、分かち難く「ゴス」を象徴する存在でもあることを示している。「ゴス」といえば日本では「ゴスロリ」が有名だが、実はこの2つは似て非なる物である。ロリータ・ファッションの色調やテキスタイルのバリエーションの意味が強い「ゴスロリ」は、文字通り「ロリータ(ファッション)」から派生したものだ。一方「ゴス」は80年代のニューウェイブやポスト・パンク、90年代のオルタナティブ・ロックやインダストリアル・ロックといった音楽シーンを背景の一つに持つサブ・カルチャーである。
ファッションや音楽性に「ゴス」特有のステレオタイプと呼べるような確固たるスタイルは無い(ファッションで、おおむね黒を好むといった程度)。精神性や趣向の特徴としては「死」や「セックス」を始めとしたタブー視されるものへの偏愛や、メイン・カルチャーや世の中の凡庸さへの嫌悪などが挙げられる。
『エスター』劇中、エスターが学校へ行くと彼女のファッション・スタイルは、多くの子供たちが着ている子供服特有のビビッドな明るい色調の服と全く異質で「浮いた」存在になり、もちろん「いじめ」のターゲットになってしまう。そして、もちろん。いじめた側は手酷い反撃を受ける。
『エスター』は中盤まで、忠実に「ゴス」の疎外感、怒り、悲しみ、そして復讐を描いていく。そこに恐ろしさを感じるか? または共感し溜飲を下げるか? 子供のころの、クラスの中でのスタンスにより、印象は違ったものになるだろう。