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『エスター』を特別な作品たらしめる、子供ホラーから飛躍する虚構 ※注!ネタバレ含みます。

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『エスター』を特別な作品たらしめる、子供ホラーから飛躍する虚構 ※注!ネタバレ含みます。

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『エスター』あらすじ

ケイト・コールマンは、運悪く流産してしまい、耐え難い悲しみを抱えていた。コールマン夫妻はその失意を埋めるため、養子を迎えることを決意。訪れた孤児院で風変わりな9歳の少女エスターに魅了され、彼女を引き取ることにする。だがやがて、ケイトはエスターの恐ろしい本性を目の当たりにするのだった…。



 小学生くらいの年頃の子供たちは、成長にバラつきがあり、まだまだ幼児と呼べそうな子供からハイティーンにも見える子供が同じ教室で授業を受けていたりする。そういった肉体的な差はもちろんだが、精神的な成長も大きく差がついてくる。クワガタ一匹でテンション超高めに丸々一日走り回って遊ぶ子供もいれば、そんな子供と同じ教室へ入れられた事に絶望する子供もいる。その「絶望」は、急成長してしまった精神が子供の肉体の中に閉じ込められた、どうすることも出来ないジレンマである。


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子供ホラーの系譜



 待望の妊娠を流産してしまった夫婦がその失意を埋めるため、孤児院から風変わりな9歳の少女を引き取ったことから起こる恐怖。それが『エスター』(09)だ。


 子供が恐ろしい「子供ホラー」作品では、近年の『ブライトバーン/恐怖の拡散者』(19)や『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)のように、超常的なパワーを持っていたり、名作『オーメン』(76)や『エクソシスト』(73)のように、悪魔を身に宿しているといった作品が知られているだろう。子供特有の幼く無垢な容姿に、不穏な能力や邪悪な魂が憑いているという、そのギャップが恐ろしさに繋がっている。


 『エスター』も、子供らしい見た目とは不相応な欲望や実行力を持った恐怖が描かれてはいるが、上記の作品群とは一線を画している。そんな『エスター』の直接的な源泉と思われるのが、1956年のアメリカ映画『悪い種子』である。


『エスター』予告


 『悪い種子』は、アメリカ人作家ウィリアム・マーチによる同名小説を原作とした、ブロードウェイ舞台劇のヒットを受けて映画化された作品である。監督はギャングものから、マルクス兄弟出演コメディに、ミュージカルまで、多岐に渡るジャンル作を手がけたマーヴィン・ルロイが務めた。


 『悪い種子』のあらすじはこうだ。裕福な家庭に生まれた少女ローダは、参加した遠足で同級生が湖に落ちて死んでしまう。ローダの母は、そんな恐ろしい体験をしてしまった娘にどう接すれば良いか悩んでいたが、帰ってきたローダはケロっとしており、むしろその平穏さに不安を抱くことになる。そんな不安から、母は自分の父親に相談すると、自分の母親が冷酷な殺人鬼だったことを知ってしまう。自分の母親、ローダにとっての祖母から「悪い種子」を隔世遺伝しているのではないか? そんな新たな疑念に取り憑かれる母。そんな中、ローダの宝箱の中に、ピクニックで死んだ同級生が持っていた習字の優勝メダルが発見される。ローダは「欲しい」と思った物を、子供らしい制御できない欲望で、子供らしい無邪気さで、子供らしいモラルの欠如をもって追い求めてしまうのだ。


 原作では娘の殺人を嘆いた母により無理心中が謀られる。ローダは大量の睡眠薬を飲まされ、母は拳銃自殺するのだが、その銃声を聞いた近所の住人が救急車を呼びローダは助かり、母はそのまま死んでしまう。という後味の悪い終わり方をする。一方映画では、検閲機関により「悪」であるローダが生き残るのはまかりならんと、母は生き残り、ローダはかなり唐突に落雷による死を迎える。


『悪い種子』予告


 また、映画が終わった後に出演者たちが登場し、母役のナンシー・ケリーがローダ役のパティ・マコーマックを捕まえて「この子ってば!」とお尻をペンペンと叩き、にこやかな幕引きをすることで虚構性を強調し、なんとかソフトランディングしてみせている。そこまでしなければいけないと思わせるほど、子供が子供らしさ故に起こす犯行が恐ろしく受け取られたのである。


 『エスター』で、エスターにピアノを弾かせ、「雷が怖い」と言わせたり、クライマックスを湖で展開させるなどのオマージュがあることからも、この『悪い種子』からの影響が窺える。『エスター』は『悪い種子』の基本構造を流用しながら、かつては表現できなかった漆黒の恐怖と、切実な悲しみを提示してみせるのだ。





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