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『17歳の瞳に映る世界』ドキュメンタリータッチが浮き彫りにするアメリカの現実

(c)2020 FOCUS FEATURES, LLC. All Rights Reserved.

『17歳の瞳に映る世界』ドキュメンタリータッチが浮き彫りにするアメリカの現実

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女性たちの連帯が変えていく未来



 オータム役として、この見事な演技を披露したのは、シドニー・フラニガン。ヒットマン監督のパートナーが撮ったドキュメンタリー映画の制作中に出会ったという彼女は、映画初出演で、この難しい役を驚くべき完璧さで演じている。劇中でほとんど笑顔を見せない沈痛な面持ちは、これほど深刻な状況にあれば当然だろう。主役をあえて、“いきいきと描かない”ことが、ドラマとして正解であるばかりか、同じような事態に直面する女性たちに対する真摯な姿勢であることを、本作は示している。


 現在のアメリカ社会で女性が直面する問題を描いた本作では、徹底して“パートナーの不在”を意識させられることになる。そんな身勝手な男性の尻ぬぐいをさせられてニューヨークに旅立った、まだ高校生のオータムとスカイラーに、さらに行きずりの男が声をかけてきて、執拗に肉体的な接触を迫ろうとする場面もある。金銭的に困窮してしまった二人の弱みにつけ込もうとする姿もまた、男性側の身勝手な欲望の象徴といえよう。彼女たちの視点で描かれる本作を観ることで、女性ばかりがリスクにさらされるアンフェアな社会構造が、あらためて実感できるのである。



『17歳の瞳に映る世界』(c)2020 FOCUS FEATURES, LLC. All Rights Reserved.


 ヒットマン監督は、過去作『愛のように感じた』(13)でも、子ども時代の女性が出会う性と、男性への幻滅を描いている。本作にも通底する、女性が体験する屈辱や、男性の身勝手さに対する感情は、監督自身のこれまでの経験の反映でもあるという。そしてそれは、具体的な内容に違いこそあれ、本質的に多くの女性が味わってきたものでもある。


 その意味で、本作で描かれたオータムとスカイラーの友情や、職務であれオータムを助けた女性たちによる、ある種の結束は、女性同士であるからこその経験や共感によって成り立つ関係であるといえる。そして、この映画そのものが、そんな悩める女性に寄り添う、スカイラーのような役割を果たすことを望んでいるように思えるのだ。


 自分のことは、自分で決める。そんな人間にとって当たり前のことができない場合がある状況は、現実に確かに存在する。不安のなかで必死に闘う主人公やスカイラーの姿は、そんな現実を乗り越えようとする勇気に溢れている。そして、旅を終えようとするオータムの表情は、旅の始まりとは対照的なものに変わっている。その瞳には、彼女がつかむべき未来が映し出されているはずである。



文:小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter:@kmovie



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作品情報を見る



『17歳の瞳に映る世界』

7月16日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー!

配給:ビターズ・エンド、パルコ

(c)2020 FOCUS FEATURES, LLC. All Rights Reserved.

(c)2020 FRIENDS IN TROUBLE LLC / FOCUS FEATURES LLC

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