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『クライング・ゲーム』 自分の中の壁を超えていく尊さ 90年代サスペンス・ラブストーリーの傑作

(c)Photofest / Getty Images

『クライング・ゲーム』 自分の中の壁を超えていく尊さ 90年代サスペンス・ラブストーリーの傑作

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シンプルながら力強く、かつ伝統的な構造がもたらしたもの



 本作はいくつかのシンプルな要素が強く絡まり合っている。まずもって映画の序盤3分の1を占めるのは「見張り」と「人質」の物語。本来なら出会うはずも無かった正反対の立場の者たちが特殊な状況下で顔を合わせ、ほのかな友情が生まれていくというものだ。


 ニール・ジョーダンによると、長らくイギリスとの関係性がこじれてきたアイルランドにとってこの種のテーマはお馴染みのものだとか。例えばフランク・オコナーの「国賓」という短編小説では、若いアイルランド兵がイギリス兵を殺すように命じられて葛藤する。はたまた、ブレンダン・ビーハンが書いた戯曲でも、人質と見張りが心を通わせ、そしていつしか「人質を処刑せよ」との命が下る。


 そのセオリーどおり、『クライング・ゲーム』は非番のイギリス軍兵士ジョディ(フォレスト・ウィテカー)が女性に誘い出される場面からスタートする。しかし連れて行かれた先で、この兵士はIRAに拉致され、イギリス側に囚われた同胞を解放させるための交渉材料として扱われてしまう。

 

『クライング・ゲーム』(c)Photofest / Getty Images


 その間のIRA側の見張りとなるのが、主人公のファーガス(スティーヴン・レイ)という男。不思議な包容力を持った人質のジョディは、見張り役のファーガスにたびたび深淵な口調で語りかける。ファーガスもまた興味本位で様々な言葉を返し、二人の間にはいつしか会話が生まれ、感情のやりとりが生まれ、さらには互いに対するシンパシーや友情らしきものまで育まれていく。が、ある日、ついに処刑命令が言い渡されることに。


 命運が尽きたことを悟った兵士ジョディは最後に、ファーガスに一つの願いを託す。「自分が死んだ後、ロンドンで自分の帰りを待つ最愛の恋人を見つけ、どうか支えになってやってほしい」というのであるーー。


 と、ニール・ジョーダン監督はここまで脚本を書き上げて、そこから先が一向に書けなくなってしまったそうだ。


 ジョディの死後、二人はロンドンでどのように出会い、いかなる関係性を構築していくべきなのか。何度書き直してもこの部分で必ず筆が止まり、行き詰まってしまう。彼はこのまま書き続けても埒が明かないと感じ、思いきってペンを置いた。


 そうやって先に『狼の血族』(84)や『モナリザ』(86)を撮り上げ、フレッシュな気持ちになってもう一度執筆を再開させたところで、ようやく陽が射した。ふと「核になる展開」のアイディアが浮かび、目の前を覆っていた雲が嘘のように晴れていったという。





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