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『15時17分、パリ行き』映画を次のステージへと進化させようとするイーストウッドの野心作※注!ネタバレ含みます。

『15時17分、パリ行き』映画を次のステージへと進化させようとするイーストウッドの野心作※注!ネタバレ含みます。


なぜ実話ばかり撮りつづけるのか?



 2006年の『硫黄島からの手紙』以来、イーストウッド監督作は11本中、8本が実話ベース。それ以前の30年で実話を元にした作品は『バード』(1988)と『ホワイトハンターブラックハート』(1990)の2本だけ。近年、極端に実話ベースの物語を撮る傾向を強めている。


 様々なジャンル映画に取り組み、時に実験的に破壊してきたイーストウッドは、かつて自らが演じたダーティ・ハリーのようなヒーローはもはや成立しないと悟りきっている。。


 彼が心惹かれるのは市井の中の特別な出自や物語を持たない「等身大のヒーロー」だ。『アメリカン・スナイパー』(2014)で描いたのは、特殊部隊に志願し、狙撃兵として絶大な戦果をあげたことからヒーローとして祭り上げられた実在の男の苦悩。続く『ハドソン川の奇跡』(2016)ではエンジントラブルを起こした旅客機を着水させ150人の乗客を救った実在の機長が主人公だった。彼は一旦ヒーローとなるが、トラブルへの対処が適切でなかったと訴追されてしまう。市井の人々が、突如ヒーローになり精神のバランスを失っていく様子が2作の共通のモチーフとなっている。


 『15時17分、パリ行き』も市井の人がヒーローとなる過程を描くが、決定的な違いは作品内に、ある種の楽観が横溢していることだろう。青年達は様々な挫折を経験しながらも、人生に希望を抱き、ある日何の前触れもなくテロに遭遇、幸運に助けられながら犯人を打ち倒す。しかし、アメリカ映画にありがちなヒーローの苦悩や葛藤、成長は描かれない。あるのはむき出しの「等身大の日常」だ。「等身大の日常」を「ジャンル映画的な物語」に変換することをイーストウッドは拒み、そのまま提示することを選んだ。脚色という手順を経ずに実録映画を成立させる。驚くべき実験をこの作品は成功させたのだ。




 社会学者の岸政彦は「物語」についてこう書いている。

 「ある強烈な体験をして、それを人に伝えようとするとき、私たちは、語りそのものになる。語りが私たちに乗り移り、自分自身を語らせる。私たちはそのとき、語りの乗り物や容れ物になっているのかもしれない。」―『断片的なものの社会学』より―



 「映画が物語を語るのではない、私は物語に語られるままに映画を撮るのだ。」


 イーストウッドはそう宣言しているように思える。この作品で映画が新たなステージに向かい始めたことは間違いない。数十年後、『15時17分、パリ行き』が映画に革命を起こしたと評価される可能性を筆者は信じるが、それは多くの観客には即座に共感されにくいのかも知れない。新たな試みにはいつも否定の声がつきものだ。彼が100歳を超えても監督をつづけ、革命のさらなる証を私たちに見せてくれることを願うばかりだ。




 ・・・それにしても映画中盤の何も起こらない旅行を再現するシークエンスが飽きずに、時に面白く見られてしまうのは何故なのか。映画を知り尽くした映画仙人イーストウッドのマジックは確かにある。



文:稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)など。現在、ある著名マンガ家のドキュメンタリーを企画中。



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作品情報を見る


『15時17分、パリ行き』

配給:ワーナー・ブラザース映画

3月1日(木)、丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他 全国ロードショー

(C)2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC

公式サイト: 1517toparis.jp


※2018年3月記事掲載時の情報です。

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