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『モンタナの目撃者』 絶体絶命の状況下で際立つ、テイラー・シェリダン流の”ボーダーライン”
映画を彩る玄人好みの芸達者たち
そう言われて『モンタナの目撃者』で真っ先に思い浮かぶのは、ワイルドな森林消防隊の面々がアンジーを囲んで丁々発止のセリフのやり取りを繰り広げる場面だろう。そこには名の知られた俳優など一人もいないが、誰ひとりとして大女優との共演に気後れすることなく、仲間同士にふさわしい快活な演技を投げ合っているのが見て取れる。
また、本作ではアンジーに次ぐ助演キャストも玄人好みの芸達者ばかりだ。特にジョン・バーンサルは本当に作品ごとに全く違う演技を見せるカメレオン俳優であり、シェリダンに「自分が手がけるあらゆる作品に出演してほしい」と言わしめるほどの才能の持ち主だ。
そして私が個人的にいちばん気になったのは、エイダン・ギレン(「ゲーム・オブ・スローンズ」のリトル・フィンガー役や、『ダークナイト・ライジング』(12)の冒頭、ベインによって上空で真っ先に返り討ちに遭うCIA捜査官役でもお馴染み)の存在だった。ニコラス・ホルトと共に少年を執拗に追い詰めていく殺し屋役なのだが、血も涙もない仕事人のように見えて、時おり中間管理職的な苦悩の表情を垣間見せたりもする。このささやかなギャップがたまらない。
『モンタナの目撃者』© 2021Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
かくも元俳優の目から見て純粋に「面白い!」と思える強靭な俳優たちが集うからこそ、そこには際立ったアンサンブルが生まれる。さらにいえば、森林火災というスケールの大きな力を前にしても、俳優たちは決して見劣りすることなく、各々の持ち場で、しっかりと自分の存在感を発揮できる。こういう極限状況において奥深い人間性をさらけ出せるかどうかも、シェリダン組に求められる大切な資質なのかもしれない。
ーーーと、ここまで、私はテイラー・シェリダンを、さもベテラン監督でもあるかのように称賛してきたが、実際のところ、監督としての彼のキャリアは始まったばかり。ならば、たったこれだけの材料をもとに、才能や世界観を枠に押し込めてしまうのは大変失礼な話だ。彼の底知れぬ真価が発揮されるのはまだまだこれからなのだから。
願わくば彼自身も数々のボーダーを見据えながら、脚本家として、監督として、自らの限界を突き抜けてほしい。そうやって彼にしか描くことのできない唯一無二の景色へ、我々を連れていって頂きたいものである。
参考記事URL
https://collider.com/taylor-sheridan-wind-river-sicario-2-interview/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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