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『モンタナの目撃者』 絶体絶命の状況下で際立つ、テイラー・シェリダン流の”ボーダーライン”
『モンタナの目撃者』あらすじ
森林消防隊員のハンナは過去に壮絶な事件を“目撃”したことでトラウマを抱えていた。ある日の勤務中、父の殺害現場を”目撃”してしまったがために暗殺者に追われる少年コナーに出会う。暗殺者たちによる父の死を間近で目撃したコナーは、父親が命をかけて守りぬいた“秘密”を握るたった一人の生存者だった。ともに“目撃者”である2人はタッグを組み、ハンナはコナーを暗殺者から守り抜くと心に決める。秘密を求めコナーの命を狙う暗殺者たちが刻一刻と2人に近づいていた。そして二人の前に広大なモンタナの大自然に燃え広がる未曾有の山林火災が立ちはだかる。彼らの行く手を阻む暗殺者と巨大な炎。コナーが命を懸けて守ろうとする“秘密”とは?ハンナは迫りくる暗殺者たちと自然の猛威という極限状態と戦い、コナーを守り抜くことができるのか?
Index
- 自己流で極めたシェリダンの脚本術
- 原作モノでありながら、シェリダンらしさは健在
- 物理的、精神的なボーダーラインを超えていく主人公
- 元俳優としてのキャリアが活きる瞬間とは?
- 映画を彩る玄人好みの芸達者たち
自己流で極めたシェリダンの脚本術
テイラー・シェリダンという名前を聞いて、どれくらいの人がピンとくるだろうか。2015年に製作された初脚本作『ボーダーライン』(15)で注目を集め、それ以降、脚本のみならず時には監督も手がけるなど、活躍の場を精力的に広げてきた彼。たった6年の間に刻まれたフィルモグラフィは同業者の誰もが羨むほど分厚く、濃密なものとなった。
人生の上澄みだけを見ると順風満帆なキャリアに見えるが、その実、彼は決して器用なタイプの人間ではない。元々俳優志望だったもののなかなか道が開けず、挫折の末に40歳でカメラの裏側へと転身を遂げただけあって、むしろ遅くしてようやく芽が出た努力家といったイメージがある。
『モンタナの目撃者』© 2021Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
脚本の書き方を学校で学んだわけでもなければ、師匠に教えを受けたわけでもない。すべては自己流で極められてきたもの。だからこそ、彼の作品は最短距離で結果を掴み取る洗練さからは程遠い、良い意味での無骨さと泥臭さが際立つ。さらには、崖っぷちで放たれる凄まじい気迫と執念と、その題材や土地にどっぷりと身を浸した者にしか描けない臨場感もたっぷり。私がシェリダン作品を愛してやまない理由はまさにそこだ。