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『モンタナの目撃者』 絶体絶命の状況下で際立つ、テイラー・シェリダン流の”ボーダーライン”
Index
- 自己流で極めたシェリダンの脚本術
- 原作モノでありながら、シェリダンらしさは健在
- 物理的、精神的なボーダーラインを超えていく主人公
- 元俳優としてのキャリアが活きる瞬間とは?
- 映画を彩る玄人好みの芸達者たち
自己流で極めたシェリダンの脚本術
テイラー・シェリダンという名前を聞いて、どれくらいの人がピンとくるだろうか。2015年に製作された初脚本作『ボーダーライン』(15)で注目を集め、それ以降、脚本のみならず時には監督も手がけるなど、活躍の場を精力的に広げてきた彼。たった6年の間に刻まれたフィルモグラフィは同業者の誰もが羨むほど分厚く、濃密なものとなった。
人生の上澄みだけを見ると順風満帆なキャリアに見えるが、その実、彼は決して器用なタイプの人間ではない。元々俳優志望だったもののなかなか道が開けず、挫折の末に40歳でカメラの裏側へと転身を遂げただけあって、むしろ遅くしてようやく芽が出た努力家といったイメージがある。
『モンタナの目撃者』© 2021Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
脚本の書き方を学校で学んだわけでもなければ、師匠に教えを受けたわけでもない。すべては自己流で極められてきたもの。だからこそ、彼の作品は最短距離で結果を掴み取る洗練さからは程遠い、良い意味での無骨さと泥臭さが際立つ。さらには、崖っぷちで放たれる凄まじい気迫と執念と、その題材や土地にどっぷりと身を浸した者にしか描けない臨場感もたっぷり。私がシェリダン作品を愛してやまない理由はまさにそこだ。