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『モンタナの目撃者』 絶体絶命の状況下で際立つ、テイラー・シェリダン流の”ボーダーライン”
原作モノでありながら、シェリダンらしさは健在
彼が監督と脚本を兼任した最新作『モンタナの目撃者』(21)を観ると、一見、これまでの魂をえぐるようなシェリダン作品とはやや色調が異なるようにも思える。
ハラハラドキドキ感が強めというか、「目撃者の少年を守るべく、ヒロインが命をかける」という点には、80年代や90年代のハリウッド映画的な、どこか懐かしい香りも伴う。当初、今回の仕事はシェリダンにとって、原作モノの脚本をリライトするだけのものだったとか。しかし作業を進めるうちに彼は本作のストーリーや世界観に魅了され、大幅な改稿を施すのみならず、どうしても自分の手で映像化したいと考えるようになった。
結果、表面的には従来のタッチと違うようでも、よく掘り下げて見つめると、やはりシェリダンならではの、あらゆる作品に通底する無骨さ、泥臭さ、気迫、臨場感が浮かび上がってくる。中でも、もっとも典型的と言えるのは、舞台となる地域が持つ特殊性だろう。
『モンタナの目撃者』予告
振り返ると、『ボーダーライン』ではアメリカとメキシコの国境地帯にて壮絶な事件が勃発し、『最後の追跡』(16)はテキサス西部の荒野がメインとなる。さらに『ウインド・リバー』(17)では、雪に閉ざされたネイティヴ・アメリカン保留地内で事件の一部始終が展開する。いずれも西部開拓時代に少しずつフロンティア・ラインを前進させてきたエリア。ある意味、米国の精神性を象徴する土地と言っても過言ではない。
ならば、『モンタナの目撃者』の舞台はどうか。明確な地名が出てこないので特定するのは難しいものの、一つ鍵となるものがあるとすれば、冒頭で父子がさりげなく口にする「ルイス=クラーク・トレイル」という言葉に尽きる。後から気になって調べてみると、やはりこれも西部開拓の最初期、政府が派遣した探検隊が、西岸に向けて切り開いた重要ルートのようだ。
すなわちここもまた、アメリカ人にとって「土地の歴史」と「現代のサスペンス」が縦と横で交わる、極めて重要な”結び目”なのである。