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『リメンバー・ミー』溢れんばかりのメキシカンカルチャーへのリスペクト!
原題はなぜ、最も無口で地味なキャラクターの名前をつけているのか
さて、主題歌にもなっている『リメンバー・ミー』だが、実は英語タイトルは『COCO』と全く違う。これは、劇中に登場するミゲル少年の100歳のひいおばあちゃんの名前である。日中、ほとんど眠りについていて、ミゲルと雄弁に会話をする存在でもなく、彼女の感情はほとんど描かれない。むしろ、口うるさいおばあちゃんのエレナや、死者の国で巡り合うひいひいおばあちゃんのイメルダの方が強烈なキャラクターとして描かれるのに、なぜタイトルが、COCOひいおばあちゃんの名前なのか。
だが見終わってわかるのは、映画の過程では「越境」する男性の冒険を高らかに歌いながら、最後は故郷の家を守る者たちへの讃歌へと変わる。夫亡きあと、ひとりで靴づくりをして娘を守った高祖父のイメルダ、その娘で靴づくりを受け継ぐCOCO、そして彼女たちの仕事を大切に継承し、店を大きくし、増えていった家族と子孫たち。まもなく人生を終えようとしているCOCOはメキシコの地にどっしりと根を張る象徴たる人物なのである。
もうひとり、メキシコの地域性を象徴する人物として画家、フリーダ・カーロが登場する。交通事故で肉体に一生の痛みを負いながら、その痛みを自画像として昇華し、メキシコの文化と共に描き続けた女性である。製作スタッフは、フリーダにまつわるモチーフを映画の中にあちこちちりばめている。
例えば、ミゲルになつき、一緒に死者の国に行ってしまう野良犬のダンテ。この犬はメキシコ原産の毛のない犬として知られるショロイツクインツレ犬(XOLOITZCUINTLE)。フリーダが愛し、夫でメキシコ美術界の代巨匠、ディエゴ・リベラと住んだ通称「青い家」(現フリーダ・カーロ美術館)でも飼っていた犬で、彼女の自画像にも登場する。
ショロイツクインツレはその昔、メキシコの原住民が宗教的な儀式の際、肉食にしていた神の使いとされ、地の神Xolotl(ショロットル)からその名を由来するように、死者の魂を目的地に連れていく役割を担うという。実際、頭がよく穏やかで、メキシコでは番犬ならびに子供のおもりにも重用されているというが、映画でもミゲルの道案内に重要な役割を果たしている。フリーダは夫とこの犬のブリードに熱心で、ショロイツクインツレが世界的にその存在を知らしめたという側面がある。
また、劇中、フリーダがパパイヤの絵を描いているのは、彼女がカマチョ大統領夫人から依頼を受けて描いたにもかかわらず、性的な暗喩が強すぎると受け取りを拒否された1942年のパパイヤを描いた静物画や、彼女が「最後の晩餐」をモチーフにした絵の中央にパパイヤが描かれていたことに起因する。
フリーダ・カーロの人生はメキシコの女優サルマ・ハエックが演じた『 フリーダ』が有名だ。また、彼女の夫でメキシコ壁画運動の革命家、ディエゴ・リベラが1933年、ニューヨークのロックフェラーセンターに『十字路の人物(Man at the Crossroads)』と題する壁画を依頼されながら、アメリカの建国者たちと並び、社会主義者のレーニンの肖像を配したたため、完成直前に破壊されるエピソードが出てくる『 クレイドル・ウィル・ロック』(ティム・ロビンス監督)もある。両作を見ると、メキシコ独自の芸術を生み出そうとした20世紀のアーティストたちの熱気と活気がまた違った角度で立ち上がってくる。
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)、『アジア映画の森 新世紀の映画地図』(作品社)などにも寄稿。ロングインタビュー・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』、『アクターズ・ファイル永瀬正敏』(共にキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワネットワーク)などがある。
『リメンバー・ミー』
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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※2018年3月記事掲載時の情報です。