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『リメンバー・ミー』溢れんばかりのメキシカンカルチャーへのリスペクト!

『リメンバー・ミー』溢れんばかりのメキシカンカルチャーへのリスペクト!

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ヘクターの越境と重なるガエル・ガルシア・ベルナルの歩み



 さて、11月1日,2日の死者の日に、死者の国に迷い込んだミゲル少年は、どうしても死者の日のうちに生者の国に渡りたいと願う孤独なガイコツ、ヘクターと出会う。死者の国では、子孫がその写真を祭壇に祀らず、なおかつ、その存在を忘れてしまうと、死者の国でもその存在が消えてしまう運命にある。生者の国に残した家族に一目会いたいと願うヘクター。それが故に、自分の写真を生者の国に持ち帰ってほしいヘクターは、ミゲルに付きまといながら高祖父探しを手伝うことに。


 だが、ミゲル自身も死者の日の内に生者の国に戻らないと、二度と家族の元へは戻れなくなる。ミゲルもヘクターも互いにタイムリミットを抱えているわけだが、時間が経つごとに、ミゲルの体はガイコツ化していく。これは、リー・アンクリッチ監督によると、あまりにも有名なタイムリミットものの『 バック・トゥ・ザ・フューチャー』と、10歳の少女が不思議な国に迷い込み、八百万の神々がやってくる銭湯で働く、宮崎駿監督作『 千と千尋の神隠し』にリスペクトをこめて、構図を踏襲したという。




 物語が進むにつれ、大きな存在を放ってくるのがこのさすらいのミュージシャンのヘクターで、死者の国から橋を渡り、生者の国へと越境しようと、もがき、苦しむ様子が描かれる。


 このヘクター役のガエル・ガルシア・ベルナルは、自身もメキシコからロンドンに渡り、そこで俳優としての基礎を叩き込んでハリウッドに進出した。彼のこれまでの歩みがヘクターと重ねられているのは興味深い。


 両親はともに俳優で、子役のときから活躍するガエルは17歳でヨーロッパを放浪。19歳の時に、古くはローレンス・オリヴィエ。ジュディ・デンチやヴァネッサ&リン・レッドグレイブ姉妹、キャサリン・スコット・トーマスなど数々の名優を輩出しているイギリスの著名な演劇学校(現在はロンドン大学のカレッジのひとつ)に初のメキシコ人として合格している。


 2000年に同じメキシコの映画監督、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『 アモーレス・ペロス』で、未来の見えないメキシコ・シティで混乱する若者を熱演。一躍、国際的に名を馳せる。01年の『 天国の口、終りの楽園。』では、後に『 ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で国際的なシリーズに抜擢されるアルフォンソ・キュアロン監督とタッグを組む。また、チェ・ゲバラの医学生時代の南米旅行記を基にした『 モーターサイクル・ダイアリーズ』(05)ではブラジルのウォルター・サルス監督と組んだりと、故郷メキシコや南米の監督たちと組んだ作品で、国際俳優のポジションをしっかりと固めていった。まさに『リメンバー・ミー』が提言する「越境」の象徴たる南米を代表する俳優の一人。




 同時に、ガエルと組んだイニャリトゥは14年に『 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー作品、監督賞を、15年の『 レヴェナント:蘇えりし者』 でも監督賞、キュアロンも13年に『 ゼロ・グラビティ』でアカデミー賞の主要部門を受賞して、今やメキシコのみならずアメリカ映画界の屋台骨となっている。


 ガエルは、メキシコの現状や政治の腐敗にも積極的に発言し、例えば、2018年1月には、17年の震災で大きな被害を被ったメキシコシティ南部、ソチミルコのサン・グレゴリオ・アトラプルコ(以下サン・グレゴリオ)地区で、犯罪に巻き込まれる若者の映画を撮影。同時に、自分が運営にかかわるドキュメンタリー映画祭アンブランテのメキシコ大震災支援プロジェクト、「LEVANTAMOS MEXICO」にて、世界中から集まった義援金2億8,500万メキシコペソを、震災の被害にあった地域の家屋の建設に充てると発表。3月には、国連人権理事会(United Nations Human Rights Council)に参加し、メキシコでは今、治安維持や麻薬密売対策の名の下に「犯罪」が行われ見逃されていると訴え、理事会の介入を求めるスピーチもしている(なお、この動画は (C)AFPにて視聴することが出来る)。


 俳優のみならず、映画監督にも挑戦し、『リメンバー・ミー』ではスパニッシュ版、英語版とWキャスティングされたガエル。しかし、そんな完璧な彼にもある弱点があり、奇しくもそれはアカデミー賞の授賞式で露わになってしまった。主題歌賞にノミネーションされた各作品が歌声を披露する中、ガエルの生歌がかなり不安定で、ネット民たちを動揺させ、世界中で、「演技も顔もいいのに……」と数々の嘆きを投稿させてしまうことになったのだ。ガエル自身、ノミネートを知ったとき、みんなの前で歌わされる事態を予想し、動揺していたというので、あまり責めないでほしいものである。



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