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『キャッシュトラック』ガイ・リッチーとジェイソン・ステイサム、年を重ねた二人で描くLAクライム ※注!ネタバレ含みます。
異邦人が見たアメリカの風景、LAのストリート
ガイ・リッチーの映画は、音楽も印象的だ。前作『ジェントルメン』(20)はロンドンを舞台にしていたので、英国のポール・ウェラー率いるザ・ジャムの70年代の曲「ザッツ・エンターテインメント」が使われ、街の猥雑な雰囲気が伝わってきたが、今回はアメリカのダークな側面を表現するため、アメリカのカントリー界の大御所、ジョニー・キャッシュの曲、「フォルサム・プリズン・ブルース」が登場する。彼が50年代に録音した時は、もっと明るい曲調だったが、映画に登場するのは<ノウンウルフ・リミックス版>。闇の奥から響く悪夢のようなトーンになっている。
この曲は数々のバイオレントな殺戮場面に登場し、「太陽を最後に見たのはいつだろう」という歌詞が聞こえてくる。主人公の心境を託したかのような使われ方で、監督の音楽センスはいつもながらさえている。
また、これまでガイ・リッチーの犯罪物は、英国の狭いストリートを舞台にしたものが目立ったが、今回はアメリカのロサンゼルスでロケが行われた。ロサンゼルスは広大な場所で車がないと何もできない。そんな場所をロケ地に選ぶことで、複数の現金輸送車の強奪事件という後半の見せ場がすごくスリリングなものとなる。道が広いからカーアクションも壮大だ。
『キャッシュトラック』©2021 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
ロサンゼルスを、英国出身の監督が異邦人の視点で描いたからこそ、その映像が新鮮なものにも見える。この街の特徴ともいえるフリーウェイや高層ビルの俯瞰ショットが多く、その大きさが強調される。
そして、ジェイソン扮するHは、仲間たちに“ライミ―”と呼ばれる。“ライミ―”とは“英国野郎!”みたいな意味でつかわれるスラング。Hを英国人にすることで、彼の得体の知れなさが伝わり、“LAをさまよう英国人”としての異物感が生まれる。バーに行ってもアメリカ人の同僚たちはネルシャツなどを着ているが、Hは(いかにも英国風に?)襟のあるカーディガン姿でボタンをきちんとしめている。こうしたディテールの重ね方もうまい。
脇役にも個性派が揃った。かつては青春スターだったジョシュ・ハートネットはHの同僚役。クリント・イーストウッドの息子、スコット・イーストウッド(リッチーはイーストウッド映画のファンだそうだ)は事件のカギを握る役。『ジェントルメン』でも存在感を示し、今や“リッチー一家”のひとりでもある英国の演技派、エディ・マーサンは会社の上司役。FBI役のアンディ・ガルシア、元軍曹役で悲哀感をにじませるジェフリー・ドノヴァンなど、ちょっと裏のありそうな俳優たちの助演も楽しめる。
「お互いに年を取ったが、それほど賢くなったわけでもない。でも、とにかく、ジェイソンとの仕事はいつも楽しい」(”Goodbaduglyshow”デイヴ・グリフィスとの2021年4月28日のインタビューより)と語るガイ・リッチー。名コンビの復活で、初期の英国を舞台にした作品とはひと味違うLAのクライム映画になっている。
文:大森さわこ
映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。
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