『ザ・タウン』あらすじ
広大なアメリカのどこよりも、銀行強盗が多発している小さな街がある。ボストンの北東部に位置するチャールズタウン。そこに暮らす者たちは、愛情と憎しみをこめて、その街を“タウン”と呼ぶ。プロ・ホッケー選手になる夢に破れ、強盗グループのリーダーに納まっているタグ、しかし彼は自分の人生に疑問を感じていた。ある日いつものように綿密な計画のもと強盗を働くが、予定外に取った人質クレアがタウンの住民だと知り監視目的に彼女に近づく。交わるはずのなかった二人の出会いが、タウンの人々の運命も変えてしまった。 激しい恋におちたクレアとの新しい人生を願うダグ。執拗に一味を追いつめるFBI特別捜査官フローリー。抜け出すことを許さない仲間のジェム、クレアに忍び寄る裏社会の掟。仲間を裏切るか、愛という名の希望を失うか──ダグは大リーグスタジアムの襲撃という、最も危険な“最後の仕事”へと向かうのだが──。
Index
- ボストンを舞台にした2大傑作からの影響
- R・ミッチャム主演の名作から受け継がれた犯行場面
- メイン俳優の直接対決は『ヒート』の伝説的場面にそっくり?
- 『ヒート』愛が高じて、映画そのものが本編に登場
- 空っぽの部屋、そして眼前に迫る水辺の意味
ボストンを舞台にした2大傑作からの影響
ベン・アフレックによる監督第二作目『ザ・タウン』は、公開されるやいなや、評論家や観客からの高い評価を獲得すると同時に、様々な傑作クライム・ムービーの影響が見て取れることが指摘されてきた。アフレック監督もそのことに関しては何ら隠し立てすることなく、むしろ大いなる敬意を捧げながら、率先して影響を受けた名作群の名を挙げている。
例えば、マーティン・スコセッシ監督が念願のアカデミー賞作品賞を獲得した『ディパーテッド』(06)。この映画もまた『ザ・タウン』と同じボストン周辺が舞台であり、アイルランド系の移民たちによって築かれたこの地にいかなるギャングの歴史が刻まれてきたのかを、観客にも返り血を十分に浴びせかけながら、実に分かりやすく伝えてくれる。また警察とギャングの世界が左右対称に描かれている点も『ザ・タウン』へ踏襲されている要素と言えそうだ。両作はともにワーナー・ブラザーズ作品ということもあり、そのロケハンやノウハウなどの蓄積の面で少なからず同じDNAを共有しているのかもしれない。
そしてさらにワーナー作品を数年遡ると、これまた巨匠クリント・イーストウッドが高い評価を獲得したダーク・サスペンス『ミスティック・リバー』(03)の存在が浮かび上がる。これもボストン周辺を舞台に、この地ならではの歴史と伝統、文化を不気味なほど濃厚に注入することに成功した稀有な作品だ。
試しに地図を広げてみよう。すると、『ザ・タウン』の舞台である“チャールズタウン”は、ミスティック・リバーとチャールズ・リバーのちょうど狭間に位置するごく狭いエリアであることがわかる。つまり二作の舞台はある意味、大きく重なっているのだ。しかも『ミスティック・リバー』はタイトルにもなっている“大河”が、まるで「全てを河だけが知っている」とでもいうかのように、ミステリアスな流れを宿し続ける。もしくはこの河は、“この世とあの世を分かつおぼろげな境界線”とさえ言えるのかもしれない。
『ミスティック・リバー』予告
奇しくも『ザ・タウン』は、このミスティック・リバーと共にこの地を分かつ“もう一つの河”を大々的に取り入れながら物語を紡いでいくこととなる。その登場回数やテーマ性から鑑みると、本作を『ザ・タウン』ならぬ『チャールズ・リバー』と名付けることさえ、ある意味可能なのかもしれない。