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『ザ・タウン』大傑作『ヒート』から受け継がれたクライム・アクションの精神

『ザ・タウン』大傑作『ヒート』から受け継がれたクライム・アクションの精神

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『ヒート』愛が高じて、映画そのものが本編に登場



 ちなみに『ザ・タウン』には他にも、ベン・アフレックの『ヒート』愛が溢れ出している箇所がある。劇場版ではジェレミー・レナーが何気なくこの映画をテレビで視聴している場面が描かれ、さらにDVD収録の “エクステンデッド版”では、ベン・アフレックが何気なく『ヒート』をテレビで眺めやっているシーンが加えられているのだ。ここにもアフレックらしい「分かる人には分かるよね?」的な目配せが見て取れる。


『ヒート』予告


 また、『ザ・タウン』のジョン・ハム演じるFBI捜査官の自宅は、室内にほとんど何も物がない“がらんどうのような状態”になっている(この場面は、J.J.エイブラムスのアドバイスを活かしたそうだ)が、面白いことに『ヒート』でも、全く同じような「がらんどうの室内」が登場する。それが、デ・ニーロ演じる強盗集団のボス、ニールの自宅だ。


 これはまさに「30秒以内に高飛びできるように常に準備しておくこと」をモットーに掲げるニールの暮らしを的確に表現しており、なおかつ観客はこれを一目見ただけで「彼の心の内側」を知ることができる。そんな彼が一人の女性と出会うことで、空っぽな人生に仄かな感情が芽生え、いつしか「ここではないどこか」で共に生きたいと切望するようになり――――このあたりは『ザ・タウン』でベン・アフレックとレベッカ・ホールがたどる道程と同じだ。




空っぽの部屋、そして眼前に迫る水辺の意味



 『ヒート』のデ・ニーロが住む空っぽの自宅にはもう一つ特筆すべき点がある。すぐそばに海辺が迫った、実に特徴的な造りをなしているのだ。これは同じ水辺(チャールズ・リバー)の暮らしを描いた『ザ・タウン』とやっぱりどこか似ている気がする。


 『ミスティック・リバー』の箇所でも触れたが、水辺という場所は、様々な“境界線”としての意味を持つことがある。そして最終的にデ・ニーロとアフレック、つまり犯罪者を演じた二人の行き着く先は、実に対照的だ。前者は水辺を越えられず銃弾に倒れ、後者はそれを越えて街から旅立っていく。もしくは、デ・ニーロは死して彼岸へと渡り、アフレックは渡らなかったという見方もできるのかもしれない。


 アフレック監督は、最後の最後で、自分の演じた登場人物に『ヒート』とは別の道を歩ませたように思うのは私だけだろうか。主人公が辿り着く先は沿岸。またも水辺だ。生き延びたとはいえ、これからも苦難は続く。彼はこれからも幾度となく河を渡り、あるいは河に行く手を阻まれながら、人生を重ねていくはずだ。その姿は『ヒート』やその他の傑作映画への愛情や憧憬から解き放たれ、いま次の段階へ進もうとしている監督としてのベン・アフレックとも重なる。なるほど、この水辺の場所から、彼が映画界の最高峰へと挑む『アルゴ』への旅立ちが始まっていたのだ。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『ザ・タウン』

<エクステンデッド・バージョン>ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税

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