メイン俳優の直接対決は『ヒート』の伝説的場面にそっくり?
とはいえ、『ザ・タウン』に魂を与えたのはボストンだけではない。おそらくこの映画を見て誰もが真っ先にその影響を見抜く作品といえば、(ボストンとは全く正反対の)西海岸を舞台にした『ヒート』(95)だろう。マイケル・マン監督が放つ、映画史に燦然と輝く男と男の激突ドラマである。
まず、両者の共通性としてよく挙げられるのが、怒髪天を衝く凄みで描かれる市街戦。本来なら多勢に無勢であっという間にカタがつきそうな場面でも、犯人側の決死の抵抗によって徐々に突破口がこじ開けられていく様が、驚くほどの骨太さで紡がれるのだ。
「追う者」と「追われる者」の世界が左右対称に広がるのも大きな特徴。さらに言うと、それぞれの極で中心的役割を放つ二人の「直接対面」が、作品内のほんのわずかなシーンでのみスパークするという構成も、両作の際立ったポイントと言えそうだ。
『ザ・タウン』のベン・アフレックとジョン・ハムは、ちょうど本編の中間あたり、取り調べの場面で激突することになる。互いに同一の画面に映りこむのは全編を通じてこの1シーンのみ。銃撃も殴り合いもないが、待ちに待ったストレートな演技合戦がアクション以上の見ごたえ感をもたらし、本作を忘れがたいものへと引き上げてくれる。
では、このネタ元(?)と思しき『ヒート』の該当場面はどうなっているだろうか。ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが直接対決する場面も『ザ・タウン』と同じく、作品内のちょうど中間付近になって勃発する。各々がフリーウェイを走行中におもむろに車を路肩へ寄せ、「コーヒーでもどうだ?」と誘い合ってレストランの座席で向かい合うのだ。『ゴッドファーザー Part2』でも名を連ねる二人が同一シーンで対峙するのは、これが史上初。当のパチーノとデ・ニーロも感情を高め、リハーサルもほどほどに、互いに手の内を明かさないまま本番に臨んだ。そのため、撮影現場にはとてつもない緊張感が張りつめていたという。
この伝説的な“対峙”に比べると、『ザ・タウン』の対決場面は本家に到底敵うはずもなく、霞んで見える。とはいえ、監督第二作目のベン・アフレックが、クライム・アクションの横綱への愛情をむき出しにしながら映画作りに臨んだことを想うと、何やら気持ちいいほどの潔さを感じずにいられない。ある意味、『ヒート』のエッセンスをわが故郷へと誘致するというわかりやすいコンセプトを、ごまかしなく、率直に描き切ったからこそ、本作はこれほど人々に愛される存在になりえたのではないだろうか。