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『キャッシュトラック』ガイ・リッチーとジェイソン・ステイサム、年を重ねた二人で描くLAクライム ※注!ネタバレ含みます。

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『キャッシュトラック』ガイ・リッチーとジェイソン・ステイサム、年を重ねた二人で描くLAクライム ※注!ネタバレ含みます。

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オリジナル版のフランス映画『ブルー・レクイエム』



 今回の映画の出発点となっているのは、フィルムノワール調のフランス映画『ブルー・レクイエム』(04、監督ニコラ・ブークリエフ)。日本ではあまり知られていないが、本国では大評判となった作品だ。リッチー監督は10年前にこの映画を見た時からリメイク版を考えたという。「この映画を見た後、自分なりに映画化のアイデアが浮かんだ。企画の話ばかりしていたが、そのうち、実際に映画化に向けて進むことにした。そして、ジェイソンに声をかけ、一緒に作ることになった」(”Goodbaduglyshow”デイヴ・グリフィスとの2021年4月28日のインタビューより)


 このフランス映画の舞台は、現金輸送車の会社ヴィジラント。そこに新たな警備員として中年男のアレックスが加わる。どこか得体の知れない男で、仕事が終わるとホテルの北側の部屋にこもり、メイドには掃除はいっさいしなくてもいい、と伝える。


 彼がこの会社に入った理由が次第に明かされていき、『キャッシュトラック』でジェイソンが演じる主人公のH同様、ひとり息子の事件に関する秘密を探るために入社したことが分かる。ただ、Hのように(実は)射撃がうまいわけではなく、現金輸送中も銃を持つとどこか興奮した様子で落ち着かない。冷静沈着なHとはまったくキャラクターが異なる。



『キャッシュトラック』©2021 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC ALL RIGHTS RESERVED.


 息子をめぐる事件の背景はHと似ているが、Hの息子はすでに青年だが、アレックスの息子は、まだあどけなさを残した無垢な少年。その子が本当にかわいいので、悲劇の重みがリアルに伝わる設定だ。


 また、アメリカ版にはないエピソードも登場する。アレックスはホテルの部屋にこもって会社の同僚たちの背景を詳細に調べる。人との接触が乏しい彼にとって、小さな存在証明となっているのが、メイドとのやりとりだ。不愛想でそっけない女性だが、シングルマザーの彼女には幼い息子がいて、アレックスの亡き息子を思わせる。そんなメイドとの不器用なコミュニケーションを通じて、アレックスの(失われつつある)人間性がふと垣間見える。このあたりにはフランス映画らしいキメ細かさが感じられる。


 主人公の設定も、アメリカ版とは異なる。アメリカ版のHはけっして普通の男ではなく、彼のすごい背景が物語の進行と共に分かるが、アレックスは元銀行員という設定で、かつては妻や息子と暮らす普通の市民だった。


『ブルーレクイエム』予告


 主演俳優、アルベール・デュポンテル(『アレックス』(02)、「天国でまた会おう』(17)」)はジェイソン・ステイサムのように格好良くはなく、地味な中年男だが、目の動きだけは不気味で、復讐心を秘めた人物の行き場のない怒りや孤独を生々しく表現する。時おり見せる狂気の中に人間の業がにじみ、印象に残るキャラクターを作り上げている。共演は『アーティスト』(11)で後にアカデミー賞俳優となる個性派、ジャン・デュジャルダン。ここではアレックスの気のいい同僚役だ。


 フランス版はアメリカ版より狭い空間で物語が展開し、古ぼけた現金輸送車が走る通りの風景もわびしく、荒涼としている。輸送会社はアメリカの企業にまもなく買収される、という設定だ。警備員の年齢も高めで、仕事中に酒やヤクでうさばらしをしている。そこは世界の中心から取り残された場所。だからこそ、悲しい狂気を秘めたサエない中年男の復讐劇が、小さな爆弾のように強烈な印象を残す。




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