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『キャッシュトラック』ガイ・リッチーとジェイソン・ステイサム、年を重ねた二人で描くLAクライム ※注!ネタバレ含みます。

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『キャッシュトラック』ガイ・リッチーとジェイソン・ステイサム、年を重ねた二人で描くLAクライム ※注!ネタバレ含みます。

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ガイ・リッチーの光る構成力



 フランス版は人物像がリアルでドラマ性が強いが、『キャッシュトラック』のような派手さはなく、あくまでも小品。リッチー版はもっと娯楽性を盛り込み、彼のアレンジャーとしてのうまさが光る展開だ。


 映画は4つの章に分けられている。第1章は「悪霊」。舞台はロサンゼルスで、主人公のHが現金輸送会社に入社してくる。この会社はかなり大手で、最新式のトラックも整備されている。入社直後の訓練では、Hの射撃の成績はやっと合格レベル。特に目立つ人物ではないが、やがて、輸送車が襲われる事件が起きて、彼が仲間たちを窮地から救う。そして、次の強奪事件が起きた時、彼がただ者ではないことが分かる。


 第2章は「しらみつぶし」。5か月前にHと彼の息子に起きた事件が描かれ、周辺のゴロツキたちが“しらみつぶし”に捜査される。第3章は「野獣ども」。戦争に参加した元兵士たち(=野獣ども)が、軍曹だった男の家に集まり現金強奪の計画を立てる。第4章は「肝臓、肺、脾臓、心臓」。そのタイトルの理由は映画の後半で明かされる。


 こうした(一見、訳のわかない)章の題名は、すべて、劇中の人物のセリフからとられていて、やがて本当の意味が分かっていく。途中から時制が大胆に飛んでいくのが、この作品の特徴でもあり、現在から過去に戻り、過去から現在へと流れを追うことで、1億8千万ドルの壮大な現金輸送強奪計画へとたどりつく。



『キャッシュトラック』©2021 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC ALL RIGHTS RESERVED.


 いくつかの謎めいたカードをめくりながらパズル全体を解いていく。そんなスリルが『キャッシュトラック』にはある。


 主人公H役のジェイソンのセリフも少なめだが、その目にさまざまな感情が浮かび上がる。困惑、怒り、悲しさ、狂気。こうした要素は『ロック、ストック…』の頃の彼にはなかったもので、監督と主演男優が年を重ねることで生まれた表現だろう。明るいユーモアがあった『ロック、ストック…』や『スナッチ』とは異なり、今回は終始、ダークなトーンで、Hの息子の事件をめぐる悲しみが感じられる設定にもなっている。


 今回の映画に関してガイ・リッチーはこんな発言もしている――「この作品は“リベンジ・アクション・ムービー”で、いろいろな要素が重ねられている。そして、最初に目にしたものとは異なる事実がそこに隠されている。そんなひねりや意外性がおもしろいと思って構成していった。また、主人公は70年代のアメリカ映画に登場した、口数の少ないアンチ・ヒーロー的な人物像かもしれないね」(”Goodbaduglyshow”デイヴ・グリフィスとの2021年4月28日のインタビューより)


 ガイ・リッチーはジェイソンと手掛けた前作『リボルバー』(05)では犯罪の世界に生きる男の内面世界を視覚化する、というチャレンジに挑戦していて、初期2作よりもダークな表現をすでに見せていた。この映画、最初は酷評されたが、海外では後にカルト的な人気も得ているという。


『リボルバー』予告


 スタイリッシュで陰影のある映像が妙にクセになるような、不思議なテイストの作品だったが、監督とジェイソンのダークな路線は今回の新作でよりスケールのあるエンタメ映画として結実した。神や骸骨のシルエットをあしらった神話的なイメージのタイトルバックも印象的で、いつもより笑いの要素を抑えることで、ジェイソンの内に秘めた凄みが引き出されている。




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