ユル・ブリンナーとスティーブ・マックイーンの確執
二人の諍いは、映画の序盤から確認することができる。クリス役のユル・ブリンナーが霊柩車を引くシーン。ヴィン役のスティーブ・マックイーンが、帽子を脱いで風の有無や太陽の光を確認したりするのだが、ブリンナーはコレが気に入らない。観客の注意がマックイーンに向けられることに、我慢がならなかったのだ。
七人がメキシコの寒村に向かうとき、マックイーンが一人身を乗り出して帽子を川に浸す芝居をしたのだが、これもまた気に食わない。ブリンナーは、「その動作をやめないと、私も帽子を脱ぐぞ。そうすれば映画の残りの時間、誰も君のことなんか見ないだろう」と言い放ったという。それでも、マックイーンが何かしでかすのではないかと心配したブリンナーは、アシスタントに言いつけて「マックイーンが帽子に触った回数」を数えさせたという。二人が並ぶショットでは、ブリンナーは常に土を盛ってその上に立ち、マックイーンよりも背が高いことを印象付けようとした(実際にはマックイーンの方が数センチ高い)。
『荒野の七人』(c)Photofest / Getty Images
マックイーンも負けてはいない。彼はブリンナーが使っていた銃に文句をつけた。曰く、「象牙のグリップが派手すぎる」。さらには、ブリンナーが乗っている馬にも文句をつけた。曰く、「馬がデカすぎる」。ロバート・ヴォーンが「7人の中で一番大きな馬に乗っているのは、自分だよ」と伝えても、梨のつぶて。マックイーンの答えは「君の馬はどうだっていい。俺が気にしているのは、ブリンナーの馬なんだ」というものだった。
ブリンナーとマックイーンが子供のようなケンカを繰り返す様子は、やがて新聞にも報道されるようになる。ブリンナーは慌てて「私は俳優との間に確執はない。スタジオとの確執があるだけだ」というコメントを出すも、もはや二人の確執は公然の事実だった。やがて他の5人も「俺だって観客の注目を集めたい!」と考えるようになり、スタントを拒否して自らアクション・シーンを演じるようになる。
監督のスタージェスは、俳優たちを自分が全く制御できない状況にあることに恐怖した。現場は完全にアンコントローラブル状態だったのである。