※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『荒野の七人』あらすじ
国境を越えたメキシコの寒村イズトラカンは、毎年収穫期にカルベラ率いる盗賊に作物を奪われ苦しんでいた。彼らと闘うことを決意した長老と村人たちは助っ人を雇うことにした。クリスら腕利きのガンマン7人が集まり、村から盗賊を追い払うため、40人の敵に壮絶な闘いを挑む。
Index
波乱含みで始まったリメイク企画
2010年にエンパイアが選んだ「史上最高の外国語映画100本」1位。2018年にBBCが選んだ「史上最高の外国語映画ベスト100」1位。黒澤明の『七人の侍』(54)は、間違いなく日本映画の偉大なる到達点のひとつにして、今なお世界に影響を与え続けているワールド・スタンダード・フィルムだ。
様々なアングルで複数のカメラを同時に回すマルチカム撮影、戦闘シーンでのスローモーション表現、望遠レンズを活用したスピード感溢れる映像。『七人の侍』における数々のテクニックが、その後あらゆる映画のあらゆる場面に模倣され、次代のアクション映画の礎となった。そしてこの偉大なフィルムを、時代劇から西部劇に移し替えてリメイクしたのが、ご存知『荒野の七人』(60)なのである。
『荒野の七人』予告
同じく黒澤の『用心棒』(61)を、セルジオ・レオーネが『荒野の用心棒』(64)としてリメイクしたときには、東宝に何の断りも入れていなかったために著作権侵害で訴えられ、世界興収15%の利益を黒澤側に支払うハメになったのは有名な話。『荒野の七人』では、プロデューサーのルー・モーハイムが東宝とキチンと交渉を重ね、オフィシャルにリメイク権を獲得する。その金額、何とわずか250ドル!現在の貨幣価値に換算しても、およそ2,200ドルという超格安プライスだ(ちなみにリメイクの商談にあたって、東宝は黒澤側に一切相談をしなかったという)。
主演として考えられていたのは、『革命児サパタ』(52)や『炎の人ゴッホ』(56)で知られるアンソニー・クイン。彼もまた、『七人の侍』を観て感激した一人だった。そのアンソニー・クインに薦められて、ユル・ブリンナーも『七人の侍』に深い感銘を受ける。彼は『王様と私』(56)で一躍人気スターの仲間入りをしたばかりだったが、監督業にも並々ならぬ意欲を抱いていた。当初の構想では、製作ルー・モーハイム、監督ユル・ブリンナー、主演アンソニー・クインという布陣が考えられていたのである。
だが、お互いにエゴが強すぎるユル・ブリンナーとアンソニー・クインが決裂。ブリンナーはルー・モーハイムからリメイク権を買い取り、彼主導で『荒野の七人』のプロジェクトが進められることになる。アンソニー・クインは烈火のごとく怒りまくり、契約違反だと主張して訴訟騒ぎに。最終的にこの訴えは棄却されることになるが、『荒野の七人』は波乱含みのスタートを切ることになる。