1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. チャイナタウン
  4. 『チャイナタウン』この世の地獄を見た映画作家が、己のトラウマと対峙するフィルム・ノワール ※注!ネタバレ含みます。
『チャイナタウン』この世の地獄を見た映画作家が、己のトラウマと対峙するフィルム・ノワール ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『チャイナタウン』この世の地獄を見た映画作家が、己のトラウマと対峙するフィルム・ノワール ※注!ネタバレ含みます。

PAGES


虐殺された妻、そして母親の影



※ここから『チャイナタウン』の結末に関する記載がありますので、未見の方はご注意ください。


 ロマン・ポランスキーの元に舞い込んだオファーは、あまりにも精神的にキツいものだった。だが熟考のすえ、監督を引き受けることを決断。再び、忌まわしき場所に足を踏み入れる。


 実は、脚本の結末を巡ってロマン・ポランスキーとロバート・タウンは大きく対立した。元々の構想では、エヴリン(フェイ・ダナウェイ)が父親ノア・クロス(ジョン・ヒューストン)を殺害して刑務所に入り、本当の理由を言えずに終わるというものだった。だがポランスキーは、「警察の発砲によってエヴリンが命を失う」という悲劇的な結末を主張する。ジャック・ニコルソンの証言を見てみよう。


 「ポランスキーの意見が通ってよかったと思うけど、当時はそれが当たり前だった。ハッピーエンドはいらない時代だったんだ。(中略)彼が言うには、“すべてを包み込んでしまうと、観客はディナーに行く前に忘れてしまう。宙に浮かせておけば、数分でも話題にしてくれる可能性がある”と語っていたよ」(ジャック・ニコルソンへのインタビューより引用



『チャイナタウン 』(C) 1974 by Long Road Productions. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2012 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.


 この救いようのないエンディングは、妻シャロン・テートを殺害された彼自身の絶望によるものだろう。そしてそこには、間違いなく母親の面影も重ね合わされている。エヴリン・モーレイは、キューピッドが引く弓のような形の紅い口紅をしているが、これはポランスキーの母親の記憶から着想を得たもの。


 さらにいえば、ギテスとエヴリンが老人ホームを訪れるシーンにも、母親の残響が見て取れる。「この施設ではユダヤ人を受け入れているか?」と尋ねると、所長は頭を振る。そのとき、エヴリンの右側に映っているのは、逆五芒星の形をした鏡。反ユダヤの象徴だ。エヴリンというキャラクターは、アウシュビッツで虐殺された母親の影を纏っているのである。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. チャイナタウン
  4. 『チャイナタウン』この世の地獄を見た映画作家が、己のトラウマと対峙するフィルム・ノワール ※注!ネタバレ含みます。